ヒヨドリ


 春先、よく晴れた休みの日に、咲き始めた花を眺めつつ公園をぶらぶらするのは一般的に楽しいものだろう。僕もこの時期、花にやってくる鳥を撮影するため公園へ出掛けようと思うのだが、いつも躊躇してしまう。野外に出ると鼻がむずむずして涙目になり、頭がぼんやりして写真どころではなくなるからだ。春まだ浅い3月、杉や檜が大喜びで花粉を撒き散らす。花粉症のアウトドア派には辛い季節がやってきた。貧相な生活を続けているせいか、ここ数年は随分症状が改善されているのだが、それでもティッシュペーパーは手放せない。片手にカメラ、片手にちり紙のスタイルは傍目に見ても情けない。
 
 この時期、花を訪れる鳥の代表選手はヒヨドリだ。彼等のヒーヨヒーヨけたたましく鳴く声や、地味なネズミ色の姿を嫌う人は多いが、これはこれでなかなか面白い鳥だと思う。椿や桜の花に顔を突っ込んで蜜を吸う姿を目撃した人は多いだろう。花粉で黄色になった顔は間抜けで愉快。
 彼等は花の蜜以外に、花そのものも好む。花をバクバク食べるのだ。特に黄色の花には目がないようで、ロウバイは恰好の標的。花を愛でる人をよそ目に、バクバクバクと次から次へと花をちぎっては飲み込んでいく。丹誠込めて梅の手入れをしている人が見たら、悲鳴をあげてしまうかも知れない。一度、タンポポのような花を地面でむしり取って食べている姿も目撃したことがある。黄色い花がとにかくおいしいのだろう。

 花好きのヒヨドリは、花粉症とは無縁に違いない。鼻垂れの日曜カメラマンは、鼻をかみながら、そんなヒヨドリをいつも恨めしげに見ているのだ。
(2000/3/20)