ゴールデンウイーク・里へ森へ海へ

 2年半の青森勤務を終え、関西暮らし再開後初めてのゴールデンウイーク。飛び石連休だったこともあり、遠出は止めて、かつて通ったお気に入りの場所を巡ることにした。兵庫県西宮市の自宅を出発したのは5月3日の夜10時、最初の目的地は県北部の豊岡市だ。豊岡市は里山の風景が色濃く残り、コウノトリの保護増殖施設「コウノトリの郷」で有名な場所。2002年8月5日、その施設に一羽の野生コウノトリが飛来し、そのまま住み着いてしまったことで、ちょっとした話題になっている。飛来日に因んでつけられた名前はハチゴロウ。8月5日でハチゴロウだ。施設のケージの中のシュバシコウ(しかも雄!)に恋をして、大きな巣まで作ったハチゴロウ。関西に戻って以来、どうにも目が離せず、月に1度くらいのペースで彼の様子を見に行っている。連休中、元気にしているかどうか確認しに行きたい鳥だった。

 5月4日朝5時15分、ホオジロの囀りで目を覚ました。朝靄に包まれてはいるが、外はもう明るい。寝袋から抜け出し、朝御飯もそこそこにハチゴロウ探し。水を張った田んぼに大きな白い影。ドキッとしたが、ダイサギだった。コチドリが千鳥足で泥の上を歩いている。
 円山川の堤防に出ると、河川敷の葦原からオオヨシキリやセッカの囀りが聞こえて来た。周囲の山からはオオルリやキビタキの声が響いてくる。
 ハチゴロウは、水田地帯の脇のちょっとした水路で餌を探していた。相変わらず険しい目つき。赤ちゃんを運ぶ優しい鳥のイメージから、本物のコウノトリはほど遠い。でも、そんな目つきが好きだ。半開きの嘴を水につけ、無造作に左右に振り回す。魚が当たればパクッと閉じて捕まえる。そんな呑気な餌採りも大好きだ。ドジョウだろうか、細長い魚を何匹か食べた後、ハチゴロウは銀色に光る翼を大きく羽ばたかせ、円山川の川下へと飛んで行った。

豊岡市を後にして、次なる目的地は兵庫県のお隣・岡山県の西粟倉村。夕刻には鳥仲間のSさんとブナの森で合流予定。途中、ハチ北高原、鉢伏高原、氷ノ山山麓に寄り道する。この辺も青森赴任前の2〜3年、初夏にはよく通った場所だった。ミソサザイ、ツツドリ、クロツグミ、オオルリ・・・鳥たちの囀りが新緑の山肌に響いている。以前と変わらない風景に、胸をなで下ろした。
 西粟倉村の森でSさんと合流したのは午後5時半。まだ明るかったが、「早速やりますか」と、冷えたビールを取り出した。Sさんは「夜は冷えるからこれが一番や」と、パックの日本酒を取り出して、ガソリンコンロで温め始めた。日が沈むと、辺りは急に暗くなる。ランタンに灯を点し、フリースを着込んで寒さに備えた。渓流の音が耳に心地よい。ビールも日本酒もすっかりカラになった頃、夜空には星があふれていた。北斗七星が教科書どおり柄杓の形に並んでいる。「ジュイチー!ジュイチー!」星だけでなく、ジュウイチの声まで降ってきた。森の奥からは、つぶやくようなコノハズクの仏法僧が聞こえてきた。

 5月5日・子供の日、よく晴れた朝の森は、鳥たちの混声合唱で大賑わい。キセキレイ、ミソサザイ、コルリ、クロツグミ、ウグイス、オオルリ、クロジ、カラやキツツキの仲間たち。ふかふかの地面を踏み、囀りを聞き分けながら山道を歩く。太陽が林床に複雑な影を落としている。名も知らぬ小さな花が、時が経つにつれ花弁を開いてゆくのが分かる。芽吹きのブナ林はいつも、そこにいるだけで気持ちを穏やかにしてくれる。

 お昼にSさんと分かれ、一人、兵庫県姫路市のお隣・御津町の海岸に向かった。里、森と見て来たから、連休最後の目的地は海だ。ホームページを通じて知り合った地元Fさんのご紹介で、初めての干潟を目指す。潮干狩りの人出を避けるように、シギ達が河口の砂浜に集まっていると聞いていた。現地に到着するとまさにそのとおり。1000人を越える潮干狩り客にチュウシャクシギが18羽とキアシシギが6羽。多勢に無勢、気の毒なくらい片隅に追いやられたシギたちは、挙げ句、釣りの子供に飛ばされてしまった。初夏の陽射しにギラギラ輝く海面を呆然と見つめる。夕方まで待てば人も減るだろうなあと思ったが、あんまり遅くなると道路が渋滞するかも知れない。干潟を右往左往するチュウシャクシギを横目に見ながら帰途につく。短いけれど、それなりに充実した連休が終わった。

(若干のつづき)
 御津町の海岸を離れ、自宅に向けて出発したのは午後3時。山陽自動車道は快適に流れていた。案外早く帰れそうだと喜んでいたら、出口の手前2キロ地点で車の列が全く動かなくなった。ラジオをつけると、前方で車4台が炎上する大事故があったらしい。道路は閉鎖され、消防車やパトカーが渋滞の列を押しのけて走って行く。渋滞なんて青森では無縁の出来事だったのに。イライラしても進まないものは進まない。日はとっぷり暮れてしまった。結局、2キロ先の出口を出たのは5時間後。何とも冴えない連休の幕切れだった。       
(BIRDER 2003.7)


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