ちーの副鼻腔炎は最初にもらった抗生物質が効かず、今度は別の2種類の薬を飲むことになった。ひとつは食事と一緒にとる錠剤で、もうひとつは空腹時に服用しなければいけない液体のもの。食前なら1時間前に、食後は2ー3時間あけて服用する。これを朝と晩。食事と一緒というのは問題ないのだけれど、空腹時の朝というのが難しい。食事の1時間前なんて、まだすやすや眠っているんだもの。朝食の後はそそくさとすっとんでいっちゃうし。そこで、学校に持って行って飲むことにした。

 年度はじめにスクールナースから手紙が来ていた。薬を持ってきたときは必ずスクールナースのオフィスに預けるように。医者の指示を書いたものがある薬はそれを添付し、ないものはどういう薬で何時にどれだけの量を与えるかを書いて親の署名をつけなければならない。ちーは液体の薬と目盛のついた小さなカップをジップロックに入れて持っていった。朝、ナースのところに薬を持って行って預けておく。服用の時間になるとナースがクラスに連絡を入れて生徒を呼ぶのだ。その薬は下校時にクラスに届けられる。薬は徹底した管理下に置かれているわけである。

 ちーは何日か忘れずに持って行ったのだけれど、ある日とうとう忘れてしまった。ま、しゃーない。帰ってからのませりゃいいか、と私はゴミを捨てに行った。20分ほどで家に戻ると、留守番電話にメッセージが入っていた。

「おかあさん、ちっち、薬をわすれちゃったの。オフィスに届けてちょうだい。」ちーの声だった。急いで学校に薬を届けるとナースが言った。「薬を届けに来てくれたの?これがプレゼントだったらいいのに!」私は薬を手渡しながら言った。「ちーへのプレゼントです。だってこの薬本当に美味しいってちーが言ってたもの。」

 公的な医療保険のないアメリカでは、医療費は高い。会社で保険会社と契約しているといいのだけれど、それでもちょっとした風邪くらいでは医者には行かないのが普通である。ドラッグストアやそこいらのスーパーでオーバー・ザ・カウンターと呼ばれる薬を買って凌ぐのだ。だからかどうか知らないけれど、薬に関しては学校でサイエンスの一部であるヘルスという時間に勉強をする。ちーは麻薬の勉強の次にオーバー・ザ・カウンターの勉強をした。(オーバー・ザ・カウンターとは、医者の処方箋なしに買える薬の事である。)たとえば、鎮痛解熱剤にはどういう種類があるか。どんな成分が含まれて、どんな作用をするか。さらにインフルエンザのときにアスピリンを服用すると危険だという事までしっかり習ってきたのだ。

 今回、液体の薬は空腹時に服用しなければいけないことを薬剤師は言わなかった。もちろん、ラベルにも書いてあったし、詳しい説明書(何の為に処方されたか、どんな成分が入っていて、どんな副反応があるか、どういう状況になったら医者に連絡をしなければいけないか、など)もはいっていたのだが、ちーは「でも、ちゃんと言わなくっちゃいけないんだよ。ファーマシストにはそういうレスポンシビリティーがあるんだから」と言った。

 日本では抗生物質の乱用が耐性ブドウ球菌などを生んで問題になっている。処方された薬の管理も徹底してはいないだろう。医者の説明もあってないようなのが多いし、詳しい説明書が入っていたこともない。少しは考え直した方がいい。