詩集
サウスカロライナに来てすぐ、カオは1年生になった。担任の先生だったミセス・ヒューズは教師歴20年ほどのベテランだったが、英語を全く解さない子供を受け持つのはカオが初めてだったそうだ。つい最近知ったのだが、クラスの中で言葉の通じないカオにどのように接するか、何度も話し合ったそうな。「トイレがどこにあるかを教えるのはどうすればいいの?」「トイレのところにつれていって中を見せればわかるよ」などといろいろ意見を交換したんだという。もっともその場にいたはずのカオもそんな話があったなんて、気づきもしなかった事だけれど。
1年生も最後の方になると、聞き取ることはだいぶできるようになっていた。先生が読んでくれる本の内容もだいたいはつかんでいた。ところが、1冊だけ、どうにもわからないものがあったらしい。先生がその本を読むとみんなが大笑いするんだそうな。カオはそう、本屋でその本を見つけたときに話してくれた。「口惜しい!何が面白いのか知りたい!お願い、買ってちょうだい!」で、ハードカバーのその本を買った。
その本は詩集だった。外国語で詩を理解し楽しむというのは、相当高度な語学力が必要である。カオも買った当初は読んでも笑うほど面白くないようで、しばらくは本棚にしまってあった。いつからだろうか、ガキンチョはジョークもなぞなぞも英語で楽しむようになった。で、その本は今ではカオのお気に入りの1冊なのだ。
Shel Silversteinという人が詩と絵を描いている。Falling Upという本の中の一つを紹介する。
THE MUMMY
Wrapped myself in toilet paper,
Head to toe to tummy,
Wrapped myself in toilet paper,
Thought that I'd be funny,
Wrapped myself in toilet paper,
Thought they'd call me "Mummy."
Wrapped myself in toilet paper,
They just call me dummy.
子供の頃、兄に頼まれて兄が自分の体にトイレットペーパーを巻くのを手伝った事がある。その事を思い出して、この詩は私のお気に入りの詩になった。カオのお気に入りはALLISON BEALS AND HER 25 EELSで、ウナギがスケボーの車輪になっていたり、カップホルダーになっていたり…。最後はAnd one got a new job on page fifty-nine.となっていて、59ページをめくると男の子が使っているコンピュータのコードがウナギなのだ。(Electric eel!)茶目っ気たっぷりの作品がいっぱい。
アメリカを離れる事になって、カオはSilversteinのほかの詩集を買いこんだ。なかにはちょっぴり悲しいものもあるのだけれど、私にとっても楽しめる詩集で、4年間のアメリカ生活の大きな収穫なのである。