睡眠不足



   3年生の九九はまだまだ続いている。コツコツとやっている子とめんどくさがっている子との差は開くばかりだ。とはいえどの子も5の段はよく知っているので、躓いたときは○×5から考えろとか、いろいろとその子の得意そうなところをヒントにして考えさせるようにしている。「いろんなアプローチの仕方があるものなのよ」と話をするのも、楽しみの一つで、これももうすぐ終わってしまうのかと思うとさびしくてたまらない。

 さて、彼等にとって計算練習より大事な事は「しっかり目を覚ましていること」である。特にD君。いつだったか頬に手の跡をつけよだれをたらして眠りこけていたのを起こして九九をさせなくてはならなかったほど。今日もあくびをしっぱなしで、簡単な足し算にも頭が回らない。机にゴンゴン頭をぶつけて何とか答えをひねり出そうとしているが目が覚めない。頭を振ってみてもだめ。昨夜9時前にベッドに入ったのだけれど、寝つけなくて結局12時近くまで起きていたんだそうな。朝はバスに乗るため6時には起きなくてはならず、あきらかに睡眠不足である。九九はさておき、何とか目を覚ますようにしなければと、少しおしゃべりをした。

 彼はとても整った顔立ちをしている。その上おしゃれなので、げっぷやおならをしてヘラヘラ笑っている彼の実態との落差が大きい。私は彼に言った。「もっといっぱい睡眠時間を取らないといけないよね。そのためには3時以降、カフェインの入ったものを取らないようにした方が良いと思う。」「フンフン。」彼は頷いているけれど、頭はまだ空っぽだ。「ねえ、夕飯のときにはコーヒーや紅茶、コーラやココア、それからチョコレートも取らないようにしなきゃだめなのよ。」彼はそこでようやく考え始めた。「え?どうして?」「あのね、それらにはカフェインが含まれているのよ。」「カフェインが入っているとどうしてだめなの?」「あのね、カフェインは人を眠れなくする働きがあるのよ。」これは確か3年生で習うはずなんだけど、彼はその時も眠っていたんだろうか?とにかくD君は納得した様子だった。で、私は持っていたレモン味のアメを彼に渡し、「今日はゆっくり眠れるようにしようね。しっかり目を覚まして、勉強するんだぞ!」と九九を切り上げ、彼を教室に帰した。

 などと言っている私も今日はちと眠い。昨夜久しぶりの偏頭痛で目が覚めたのだ。こうなると再び眠りにつくことは無理というもの。アメリカでは偏頭痛に効果のある鎮痛剤が処方箋なしで買える。確かに楽にはなるのだが、しばらく胃がむかつくのとカフェインが入っているため眠れなくなるというside effectがある。悩んだ挙句、ひどくなりすぎてこの薬が効かなくなっても困るということで、飲んだのである。覚悟の上ではあるが、眠れなかったから、あたしゃ眠いのよ。まあ、それでも痛みが消えたので、こうしてぼやけるわけだし、めでたしめでたしと言う事にしておこう。

 それにしてもD君、ちゃんと勉強できたかなあ?