雪
雪である。ここサウスカロライナでは雪が積もるのはせいぜい2〜3年に一度なので、まだ薄暗いうちに雪が積もっているのを見て、私はなんだかドキドキしてしまった。ガキンチョに声をかけるには20分ほど早かったので、おとうに小さな声で「雪が積もってる」と声をかけた。おとうのでかい「なに?雪?」という一言で、ガキンチョどもはガバッとおきあがった。いつもこんなふうに寝起きが良いとどれほど楽か!
雪が積もるとたいてい学校は休校になると聞いていた。ガキンチョもそれが気になって、テレビにかじりつく。休校の知らせはラジオやテレビの放送でのみ伝えられるのだ。隣の学校群は2時間遅れだったが、残念ながらガキンチョの学校は通常通りのようである。もし休校になったとしても、振替の授業はsnow make up dayとしてカレンダーに盛り込まれている。めったに無いチャンスだもの、私としては休校にして欲しかった。せめて2時間遅れならひと遊びできたのに!
前回雪が積もったのは96年の2月最初の日曜日であった。午前中思いっきり雪遊びをしたのだ。ポポコが我が家に来てほどない時で、白い雪の上に白っぽいポポコがいるのを見て「カメレオンだね」と誰かが言ったのを覚えている。ポポコはその後茶色っぽくなったので、今年は雪の上でもカメレオンにはならない。犬小屋の中で寒そうにうずくまっている。犬らしくないヤツである。
実はこの日、カオは学校の宿題でブリッタニーといっしょに作ったフローチャートの発表をする事になっていた。「パンの作り方」が彼女らの決めたテーマで、前日クラス全員の分のパンを作っておいたのだ。これは成績表に影響するプロジェクトなんだそうで、フローチャートやその行程通りに作った作品(この場合パン)のどちらかを忘れると、それだけで50点引かれるんだそうな。「明日にずれてパンが固くなったら、きっと減点されちゃう!」とカオは心配そう。
さらにチーたち6年生はこの日、フィールド・トリップがあるのだ。フィールド・トリップとはいっても、通常の授業を受けた後みんなで歩いてローラースケート場に行くというものである。この計画が発表されてから、先生に注意を受けて5つ「警告シール」が集まった子は参加できない約束になっていた。(チーのクラスではクリスとディナが行けないんだそうな。シビアでしょ?)スケート場は貸切なので、休校になったら「中止」ということになってしまうんじゃなかろうか?チーは心底不安そうに言っていた。
そんなこんなで、休校を期待していたのはガキンチョといっしょに遊びたかったこの母だけだったかもしれない。ガキンチョを学校に送った帰り、フロントヤードの雪を拾ってみた。粉砂糖のようにさらさらしている。階段を箒で掃くと、細かい雪が舞い上がる。私の兄は北国での生活が長く、雪にまつわる苦労は時折耳にする。だから「たまに降るから良いのよ」ということなんだろうけれど、せめてこの日はガキンチョが帰ってくるまで溶けないでいて欲しかった。でも、正午近くにパッと消えてしまったのよ。東京辺りだと何日も日陰に雪が残っているのだけれど、ここではパッとすべて魔法のように消えてしまう。とてもはかなくて、だからこそガキンチョと遊びたかったなあ!
PS;ガキンチョの報告によると、この日学校へ来なかった子も多く、2時間遅れだと思って遅刻してきた子もいたそうな。中には平常通りに始まると知っていたにもかかわらず、朝思いっきり遊んでから2時間遅刻して来たツワモノもいたとか。「ずるい!!!」と我がガキンチョは怒り狂っていた。私も校長先生に「休みだったらよかったのに!」と文句を言ったのだけれど、彼女も平常通りの授業にすべきではなかったと思っていたそうである。これは教育委員会が決める事で、どうしようもなかったと言う。この日、教育委員会に苦情が殺到したのは間違いない。