最悪の経済って?
さて、ビデオカメラ。英語ではcamcorderというのだけれど、とにかく我が家の8mmビデオカメラがぶっ壊れてしまった。時をほとんど同じくして、8mmのビデオデッキもおとうの車も壊れてしまって、おとうの機嫌が悪くなるのも無理はないというもの。
私たちがここへ来た三年半前、camcorderといえば、ここいらではVHSのテープをそのまま使うドデカイ奴が多かった。こっちの大きな人が肩に担いでいるのはそれなりにサマになっていたけれど。それがここ一年ほどでコンパクトなものが目に付くようになった。カメラ本体で再生してみられるとか、ライトがついているとか。実際に店を覗いてみると、8mmではHi8が多く、それも500ドルくらいと思いのほか安いのである。それでもおとういわく、サウスカロライナのビデオカメラ事情は2世代くらい遅れているんだそうな。
我が家では子供の成長をビデオに収めるという趣味は、はっきり言ってない。子供が幼稚園に入ってから、たしかおとうの両親のを借りて学芸会だの運動会だのを撮り、両方のジジババのためにダビングしていたのだ。アメリカにくる際、孫に目のないジジババの事を思って買って持ってきた。当時から白黒のファインダーなんてえシロモノは時代遅れで、だから安かったのだが、壊れてしまってはどうしようもない。おとうは、まずインターネットで日本のビデオ事情を探った。最近ではインターネットで何でも揃ってしまう。ビデオもインターネットで買えるのね!とのんきな私は驚いてしまった。デジタルが主流というのも驚きだったが、そうなるとそれ以外のものが極端に少なくなるのにはもっと驚いた。Hi8ですらちょこっとあるくらいで、デジタルが思いっきりのさばっているのだ。値段を見て私はぶっ飛んでしまった。15−6万円もするのよ!生活必需品でもないビデオカメラになんでそんなにつぎ込むか?日本は最悪の経済状態だったはずではないか?
このあいだ、TV-JAPANのニュースで、日本橋東急百貨店の閉店セールの様子が紹介された。このところずっと売上が前年度に比べてマイナスだった百貨店業界に数字の上では刺激になったかもしれないが、血走った目で買い物をする人たちを見て、ここでも疑問がふつふつと沸いてきたのだった。最悪の経済状態、底這い、といわれながら50%オフとはいえ何十万円も出して宝石を買うか?コートを一人で3枚も4枚も買うか?靴を5足も6足も買ってどうするんだ?おじさんが婦人モノのバッグをしこたま買いこんで何に使う?リストラだ、倒産だと職を失ったのはほんのごく一部なのか?給料が頭打ちだったり、減額されたり、残業手当がなくなったりでローンの支払いに四苦八苦しているというのは、例外的な人たちだったのか?
サウスカロライナには食べるものに事欠いている人たちが45万人いるともいわれている。ダウンタウンの公園に行ってホームレスの人から声をかけられたこともある。だいたいおとうは声をかけられやすい。「5ドル持ってないか?」「8ドル必要なんだが…。」もちろんこういうふうに声をかけられると心拍数が上がるわけであるが、彼らはこぞって恐喝しているわけではない。「ない」と答えれば「そうか」と引き下がるのが普通だし(でなければ困る)、先日のホームレスのお兄さんはGod bless you!と微笑んでくれたくらい、紳士的なのだ。失業率が全米で最低を誇るサウスカロライナでこれなのだ。このあたりの平均所得は日本と比べると半分以下である。共働きが多いのは、人間としての生き方ということもあるが、収入の面で理にかなっているともいえる。多くの人は実につましい生活をしているのだ。日本のビデオカメラとデパートの閉店セールの話を友人にしたら、案の定crazy!という答えが返ってきた。「どうにも理解できない」んだそうだ。
ここでは収入は低いが夕方5時には家に帰り家族揃って夕飯を食べられる。満員電車もなければ、通勤に一時間もかける必要もない。何十万円もの宝石は探すのすら難しいサウスカロライナだが、日本にいるよりずっと心地よい。日本で最悪なのは経済じゃなくて意識じゃないかなあ。