それでもペンキ塗り



 あー、もうイヤ!と叫びたいのをこらえて、ペンキ塗りの話である。長くとも2週間もあれば終わると思っていたペンキ塗り。「ハローウィンまでには…」が「いくらなんでもサンクスギビングには…」となって、「年を越すのもやむをえない…」となってしまった。このところのバカ陽気のおかげで、ホームページでぼやく暇もなしにペンキ塗りをしていたけれど、そろそろめどをつけないといけないようだ。テレビの天気予報はこぞってbig changeだと騒いでいる。これまで例年比で最高気温を記録し続けていたような天気から一転真冬の寒さになるというのである。実際メイン州では最高気温が71℃あった翌日37℃(摂氏で22から3℃へと急降下!)までしか上がらなかったそうである。クロスガードのオバサンも学校のスタッフも「寒気団がノースカロライナまで来てるのよ。」と天気の話ばかりしている。本格的な寒さになったら、ペンキ塗りができるのはガキンチョが学校から帰った2時半から4時くらいまでに限られてしまう。

 この家は平屋建てなのであるが、屋根裏に物を置けるスペースがあり、2つの小窓がつけられている。この窓枠もペンキ塗りの対象なのである。ここいらの人は、こまめにペンキ塗りやらメンテナンスをする人が多いので、フロントポーチとトリムの塗り替え。しかも色を変えるのだというと「そりゃあ、大変でしょうなあ!」と理解をしてくれる。まわりの人たちの同情を一心に集めるのは、最近ではもっぱら私なのである。ある友人はちょっと古いタイプの南部人なのだが、私がペンキを塗っていると聞いて「ダンナは何をやっているんだ!そんな大変なことを大事な妻にさせておいて!!!」と、とても驚いていた。おとうにとって私が「大事な妻」かどうかは別のモンダイとしてこの際避けておくことにして、脚立で塗れる範囲は私がすることになってしまっている。「俺は仕事がある」とほざくな!

 さて、屋根裏の小窓なのだが、当然のことながらフロントヤードに面したところなので、人目につきやすい。脚立では届かないので、小窓から屋根に出て塗るしかない。屋根は急斜面で滑りやすいとハシゴを借りたときに探検したおとうが言っていた。そんなところを妻に塗らせてはそれこそひんしゅくを買ってしまう。「かあちゃんがおっこったら、どうやって片づけるか考えちゃうもんなあ。運べねえよなあ。」そーゆーモンダイじゃない!おとうがヤルしかないのだ。ロウズに行ってロープを買った。命綱にするために。

 ガキンチョが補習校に行っている間に決行である。ロープをタスキがけにしておとうに括り付け、反対側は柱に括り付ける。おとうは何度も「本当にちゃんと縛ったか?」と聞く。信用してないんだ。命を狙うほど保険をかけてないって。やすりをかけ、雑巾で拭く。ところどころ釘が浮いているそうな。釘を打つ場所が悪く、内側の板のないところに刺さっているだけで、きちんととまっていないのよ。プロの仕事とは思えない。「自分の家じゃなくて良かったねえ」と言いながら、おとうは釘を打つ。見れば見るほど雑に作ってある。万が一、自分の家を買うような機会が巡ってきたら、こういうところをしっかり見なければいかんなあ。「ひもを引っ張っておいてくれよ!」おとうは時折叫ぶ。余ったロープの上にどっかと座り、おとうの動きに合わせてロープを調節する。夕方もペンキ塗りに精を出して、それでもひとつの小窓にプライマーを塗っただけ。

 翌日、ミーは友達の誕生日会に出かけることになっていた。スケート場である。パーティーが多いと芋洗い状態になって、小さなミーには危険である。仕方なく母は3時間スケート場にいることにした。「かあちゃんがいないから、今日はつかまってできるところだけにしよう。」とおとうは言った。ほう、多少は信頼してくれてんだ。「かあちゃんはいい重しだもんなあ。」勝手にしてちょーだい!ペンキ塗りはまだまだ続くのだ。