マットレス売ります!
チーとカオは2段ベッドで寝ている。2段ベッドのことをバンクベッドと呼ぶのだが、我が家のは、おとうが家族より先にここへ来た時に用意しておいてくれた「有り難い」ものである。おとうは家具の大部分を、倉庫のような薄暗い店舗のちょっと怪しげな店で調達したそうなのだが、バンクベッドは中古でマットレスだけは新品を購入した。私はそのバンクベッドに寝たことはないのだけれど、ベッドメーキングをしていると(本当は自分たちでするように母はことある毎に話しているのだが、なかなかしてくれないのよ)、スプリングがごりごりと痛く感じる。で、しかたなくスポンジのベッドパッドをマットレスの上に敷いていた。チーの成長は勢いを増している。おとうはついに「マットレスを買い替えよう。」と英断を下したのだ。マットレスはピンからキリまで、値段にものすごい幅がある。デパートやきれいな家具屋で買うととても高くなるに違いない。そこで電話帳で安そうなマットレス専門店を調べて出かけることにした。
そのマットレス屋で、どういう訳かおとうの「バンクベッド」がなかなか通じない。ここのオヤジサンに限ったことではないが、たまにいるんですな、ガイジンの英語をききとれない族が。ノンのクラスのボランティアで、時折スペリングテストの追試を頼まれる。私のジャパニーズイングリッシュでテストをするなんて無謀にもほどがある!と最初は思ったのだけれど、外国の企業の進出によって経済を支えられていると言って過言でないサウスカロライナではガイジン英語を聞き取ることも必要なことなのだといえる。(ミス・バードが底まで考えているのかどうかは知らないけれど。)マットレス屋のオヤジサンもコツをつかんできたからか、そのうち会話も成り立つようになって事無きを得た。マットレスを2つ車に積んで家に帰った。
ベッドのマットレスを入れ替えるべくおろす。そこではたと気がついた。2段ベッドにはマットレスを支える枠が必要なんじゃなかろうか?今のマットレスは底に木の枠がはめ込んであるやつなのだ。考えた挙げ句、おとうは先のマットレス屋に出向いて相談をすることにした。オヤジサンいわく、我が家にあるマットレスは「バンキーマットレス」と呼ばれるもので、普通のマットレスを2段ベッドに使う時は「バンキーボード」なるものを買わなければいけないんだそうな。これは普通1枚30ドル。ロウズやホームディポで板をカットしてもらってもよいが、オヤジサンの店では1枚20ドルで仕入れてくれるそうな。おとうはオヤジサンに2枚取り寄せてくれるように頼んで帰ってきた。何日かして、ベッドにバンキーボードを乗せ、さらに新しいマットレスを乗せてチーとカオはご機嫌に眠れるようになった。次のモンダイはバンキーマットレスの処遇である。
たいていの家では物を置くスペースにゆとりがあるからか、エキストラのマットレスもいくつかしまってあって、ガキンチョがお泊りをするときなぞに利用される。我が家は小さな子供が一人かせいぜい二人いる家庭用の家に6人がひしめき合っている状態で、残念ながらスペースがない。それでも、物置に使っている主寝室のシャワールームを片づけて、しばらくの間マットレスをしまっておいた。ところがおとうが言うんですな。「う××をしている時目障りだ。」確かに3cmほどはみ出しているのよ。「中古の家具屋に売ろう!売れなかったら、捨ててもいい。スペースの方が大事だ!」で、電話帳で「中古の家具、買います!」という店を探して電話をかけ始めた。買うとはっきり明言したところはなかった。「買わない」という店の方が断然多い。とにかく「買うかもしれない」と行った店に持っていくことにした。
その店は、おとうが家具のほとんどを買った「怪しげな店」よりはるかに怪しげだった。中はとんでもなく暗い。ソファーがたくさん置かれているが、暗い中でさらに薄汚く見える。店のお兄さんはマットレスを見て「ひとつ10ドルでどうだ?」という。何年使ったかも何も尋ねなかった。ただであげてもいい!とさえ思っていた私達は喜びをひたかくしてうなずく。商談成立。バンキーマットレスは2つで20ドルになったのだった。「引越しの時はここに持ってくりゃあ、何でも売れるな」おとうは言った。そりゃま、そうなんだけれど…。