ディストリクトのオーケストラ
ある月曜日、チーは学校群のオーケストラのオーディションを受けた。場所はミドルスクール。来年もし私達がここにいられたら、チーが通うことになる学校である。学校群のオーケストラは6年から9年生で構成されている。この学校群では、たいてい6年からミドルスクールに行く。6年まである小学校はウチのガキンチョの通う学校だけだ。
チーのストリングスの先生、ミセス・ジョーダンは今年からこの学校に来た。ある朝、ガキンチョを送って学校に行った時、ミセス・ジョーダンからオーディションの話を持ち込まれた。チーは個人レッスンを受けているわけでもなく、家で熱心に練習をしているでもなく、音感が良いわけでもない。今でもどちらかというと神経に障る音を出しているといえる。それがまた、なんで推薦されるのか?ミセス・ジョーダンはかまわずしゃべり続ける。「チーはいつでも真剣に私の話を聞いている。真面目で、本当に良い子だ。チーならやっていける。」フンフン、なるほど。生活態度ということなら、多少納得がいく。チーは学校では本当に良い子なのよ。だから、家に帰るとドッと疲れが出て、妹たちには結構トゲのある事を言ったりする。カオだかノンが「カリカリおばば」とつぶやいたくらいなんだから。家族に当たるくらいなら、学校で良い子にしていることはない!昨日思い余って母はそう怒鳴ったほどよ。元気な男の子を持つ友人に言わせると、チーの「トゲ」なんぞは、ないに等しいものなんだそうな。あれしきの「トゲ」を怒るようでは、チーがかわいそう!とも言った。何より「学校だけでも良い子でいられたらいいじゃないの!ところかまわずワルガキしているウチの子はどうなるのよ!」と目を大きくして言った。そう言われればそうかもしれない。
とにかくオーディションも無事に通過して、チーはオーケストラのメンバーになった。(唯一の小学生よ。)練習は週1回、3時半から5時まである。3時半はミドルスクールのお迎えと重なる。以前新聞に、このミドルスクールは生徒が増えて送迎の時間帯にはひどい交通渋滞になっているという記事が出ていた。確かにひどいものである。とんでもなく混むし、危険だ。おとうは「補習校の宿題と現地校の勉強で目いっぱいなんだから、オーケストラなんかやめちゃえ!」というのだが、先生の期待と好意をひしと感じているチーは「やめられない」という。無理して良い子でいると疲れるんだぞ。で、オーケストラはおもしろい?私が尋ねるとチーは「むずかしい!なにやってんだか、全然わかんない!」と言った。(モーツァルトのドン・ジョバンニ!!ときたもんだ)それでも「やめないよ」ということである。最近は私と背丈もあまり変わらなくなったチーだが、もう少し頻繁に抱っこしてねぎらってあげるとしよう。