ペンキ塗り その2



 いよいよペンキ塗りが始まった。紙やすりでは埒があかないと、おとうは電動のサンダーなるものを買ってきた(29ドル99セント)。手でやすりをかけて翌日には肩が痛いと言っていたおとうだが、これがあればだいぶ楽になる。もっとも直後は手が痺れたようになって、お箸を持ちにくいと言っていた。もともとおとうは肩を痛がっていたが、(五十肩というのはかわいそうだけど)このサンダーはちょうどマッサージの代りになったのか、そちらの方は痛みがなくなったそうである。思わぬおまけだ。

 サンダーでこすった後は漂白剤入りの洗剤で洗うのだ。これも電動ブラシがあるといいのだろうけれど、ペンキ屋になるわけではないので、機械ばかり増やすわけにもいかないだろう。私とおとうがゴシゴシこすることにする。水で洗剤をよく流して乾燥させる。打ってある釘に錆止めを吹き付ける。乾いてから木についた錆止めを紙やすりで擦り取っておかないと、あとでシミになる。試しにポーチへの階段の手すりにペンキを塗った時、それを知らなくて、シミになってしまったのだ。

 ペンキを選ぶ時、それでなくとも優柔不断のおとうはさんざん迷った。まず、塗る場所によって部屋の内装用、外回り用なんてえのが当然あるし、さらにpaint、stain、gross、satin、flat、latexなどなど、なんのこっちゃわからない表示がいっぱいなのだから。まず、ペンキには大きく分けて2種類があるのだ。stainはモニカ・ルインスキー嬢の洋服のシミのことではなくて、塗料が染み込んでいくタイプのペンキのことなのである。これに対してpaintは表面を塗るだけのペンキである。stainは塗り替えの時にも簡単には落とせないので、次に塗る色が薄いと透けてしまうことがある。もっともpaintであっても、きれいにはがしてから塗り替えができるわけではないので、濃い色の塗り替えは注意を要する。今回は薄めのグレーからアイボリーへの塗り替えで、2ー3回重ね塗りをしないといけないことがわかって、ちょっとがっくりしている状態である。

 おとうは昼休みにもサンダーでこすったり、ブラシをかけたりしている。私も少しは手伝うのだが、いつまでつづくのか見当もつかない仕事にちょっと嫌気がさしている。「7フィートか8フィートのハシゴを買わなくっちゃな」おとうは言う。高いところは苦手なはずなのに、大丈夫かねえ。やすり、ブラシ、そして2度塗りとざっと数えても4回は上らなきゃいけないのよ。

 ペンキに夢中のおとうは、芝が伸び放題なのもほったらかしだ。やはり芝刈りは私の仕事になってしまったらしい。芝刈りでへとへとになった私におとうは叫んだ。「かーちゃん、大変だ!ペンキが!!!!」