ドラッグ?



 久しぶりに行ったK-Martでのことである。ガキンチョのお迎えとおとうの昼ご飯の関係で、相変わらず私が動けるのは午前中の早い時間帯に限られている。グローサリーでは、まともな生鮮食料品がないし、スーパーも商品の補充などをしていることが多くて、買い物には適さない。が、しょうがない。その日、さらに悪いことに、K-Martは模様替えの真っ最中で、いくつかの棚は空っぽだし、通路に商品が山積みだし、必要最低限の買い物をして引き上げることにした。

 レジは1ヶ所しか開いてなかった。私の前には中年の男女が並んでいた。ヒッピーという言葉が思い浮かんだ。男性は髪はボサボサ、髭ぼうぼう。汚れたTシャツに汚れたジーンズ。女性はショートパンツにブラトップだけ。露出された皮膚には無数の掻き傷のようなもの。レジは彼らの順番になった。男性はキャッシャーの前に進んだが、女性はその場に突っ立ったまま突然甲高い声で笑い出した。男性が前につめるように促すと、彼女は笑うのをやめて前に進んだ。何秒かして、彼女はまた笑い始めた。キャッシャーからおつりと袋を受け取った男性は笑い続ける女性の腕を引っ張るようにして去っていった。

 アメリカに来てから、そう言えば酔っ払いにあったことがない。車社会で公共の交通手段に頼れないのだから、外で酒を飲むことがまず難しい。ガキンチョ連れで行くレストランでも、時折ビールを飲んでいる人を見かけるくらい。日本のような千鳥足は見たためしがない。酒だけではない。煙草を吸っている人も日本に比べるとずっと少ないように見える。ところがチーが学校で習ってきたところによると、未成年者の飲酒と喫煙は増加しているのだ。確か新聞にも出ていた。成人の喫煙率は下がっているのだが、未成年者の喫煙は増えている。しかもだんだん低年齢化している。煙草の税金引き上げに絡んでの記事だったと思う。サウスカロライナはアメリカで主要なタバコの産地のひとつなのだ。

 おとうによるとコロンビアの犯罪発生件数はいまや、アメリカの平均の2倍ということである。日本でも、覚醒剤が子供たちの手に入りやすくなっていると報道されていたが、日本よりずっとずっと犯罪の多いコロンビアでも、私の知らないところではドラッグが日本以上に身近になっていると考えるのが自然かもしれない。

 K-Martのキャッシャーは彼らが立ち去ってから身震いをして「きっと麻薬中毒かなんかに違いないわよ」と私に囁いた。この話をするとチーは「小学校のカリキュラムにD.A.R.E.が必要なくらいなんだから、やっぱりドラッグが出回っているんじゃないかなあ。」とこともなげに言った。そして「どんなに誘われてもNoって言えなくちゃいけないんだよ」と続けた。我が子の答えは頼もしいけれど、気持ちの沈む一日であった。

 D.A.R.E. ; Drug Abuse Resistance Education