モンダイは発音よ
おとうの会社では、何年か毎に全社員が英語のテストを受けなければいけないんだそうである。おとうはアメリカに来て3年、その前にもしばらくテストを受けていないから、もし日本へ転勤ということになれば、じきにテストを受けなければいけなくなるのは必定である。「3年もアメリカにいりゃあ、ペラペラだとみんな思うよなあ。困ったなあ。」おとうの英語の実力は私にはよく分からないけれど、3年アメリカにいてもペラペラになるとは限らないということは、私自身がよく知っている。もちろん、人による。
さて、おとうは英語の勉強をする気になったらしい。恐ろしく飽きっぽい人なので、いつまで続くかはわからないが。どうも「聞き取り」が大事だと考えるに至ったようである。テープを聞いてそれを書く。書くのは疲れるから、それをおうむがえしで言えれば良しとしよう。言ったことがそのままタイプできると便利だ。そう考えたおとうはソフトを買ったのだ。勉強をしようと思ったのが先か、そのソフトを買いたいと思ったのが先かは知らないけれど。
このソフトはキーボードを叩くより早いというのがうたい文句だ。が、残念ながら、我がコンピュータでは(2年前に買った999ドルパソコン)処理能力が遅くて、キーボードを叩いた方がはるかにマシなのだ。しかも、というか何というか、つまり、その、早い話が、おとうの発音を正確に聞き取れないのよ。これはソフトが悪いわけじゃなくて(おとうはソフトも悪いと言っている)おとうの発音にモンダイがあるわけである。試しにガキンチョにさせると、マイクに口が近すぎたとか、雑音が多かった以外では、おおむね正確に聞き取っているのだから。このあたりは南部なまりがあって、お年寄りの中にはものすごいアクセントを使う人がいる。彼らの英語は聞き取れるのか?どこまで許容範囲があるものかわからないけれど、ジャパニーズ・イングリッシュ・バージョンがあるといいなあ。そのうち、ミセス・ライトを招待してためしてもらうのも悪くない。彼女は、最近ではあまり聞けなくなったチャールストン訛りを使えるのだ。
おとうが夢中になるのはかまわない。でもうまくいかないと機嫌が悪くなるし、八つ当たりされるのはたまらない。おとうはまず、Hello!と言ってみたらしい。ところがタイプされたのはFollowであった。次にThis is a pen.を試したそうな。thisは比較的簡単に(でも一度でできたわけではない)聞き取ってもらえたが、isとpenはなかなかうまくいかなかった。isはhis, easeに、penはten, henになってしまうのよ。それが気に食わないおとうは、私達がちょっとでもうるさくするとものすごい剣幕で怒る。何時間もかかって、おとうはガキンチョの絵本をかなりうまく入力することができるようになった。同時にものすごい剣幕はどこかへ行ってしまったようである。やれやれ。
このソフトは明らかにキーボードの代りに入力する手段として売られているものである。が、おとうの場合には「発音矯正ソフト」になっているのだ。このソフトは、単語を一つずつ区切っていわなければいけないので、実際に話す練習には、残念だけれどならない。おとうは私にも試してみろという。私達夫婦は足を引っ張ることはあっても、切磋琢磨してお互いを高めようなんてしない。おとうの目が「笑ってやるぞ」と言って いるように見えるので、試すのはおとうのいない時にしようっと。