きこり
TV-Japanの衛星会社変更に伴って、おとうはどうやらプライムスターからディッシュネットに乗り換えることにしたようである。
TV−JAPANから送ってもらった資料によると、「機器を自分で取り付けることは不可能ではないが、アンテナの方向が正確でなければならないのみならず、ケーブルをテレビに配線する必要があり」代理店に頼んだ方がいいという。ごていねいに「日本語の説明書はない」とまで書いてある。こーゆー書き方はおとうの反骨精神に火をつける結果となりかねない。おとうはインターネットで値段を調べ始めた。
衛星会社を変えるにはもちろん、今のアンテナとレシーバーを返さなければならない。プライムスターの代理店がディッシュネットをも扱っていれば話は少し簡単になるかもしれない。おとうはある日、代理店に電話をしたそうな。「レシーバーは自分ではずして代理店に持ってこいって、アンテナはプライムスターに送り返せっていうんだぜ。」おとうは言った。代理店から人が来てやってくれるとばかり思っていた私達はびっくりしてしまった。「どうせ床下へもぐらなきゃならないのなら、自分で取り付けてもいいよなあ」おとうはつぶやいた。そして、それから1週間も経たないうちに大きな箱が2つ届いたのだった。
「ディッシュネットは日本の衛星放送並みの小さなアンテナで受信できます」とTV-Japanは説明しているが、結構デカイ。叩くとカンカンと情けない音がする。中華鍋の代りにはなりそうもない。(あたりまえか?)結構デカイアンテナを、アメリカの放送も受信する場合はもうひとつつけなきゃいけない。2方向とも衛星を捉えられなきゃいけないのよ。立地条件もそれだけ厳しくなるのだ。「今まで以上のサービスを提供できるよう…」というTV-Japanの主張はやはり変だ。おとうは2つのアンテナをバックヤードのデッキにつけるつもりらしい。
土曜日、補習校がせっかく夏休みだっているのに、おとうはアンテナにかかりっぱなし。で、バックヤードにある木が邪魔になるようだという。「切らなきゃ」という。その木は春先に毛虫が大量発生して、大騒ぎをしたヤツである。(木登りの勇姿は写真編に載ってます。)おとうは折畳式の鋸をポケットに入れて、木に登った。お隣りとの境近くに生えたその木は、フェンスをしならせてしまうほどになっているため、本来なら切り倒してもいいのだろう。でも、2mくらいのところに鳥が巣を作って住んでいるのだ。で、半分くらいの所から切ることにした。次に、下の方からお隣りの方へ伸びている枝を切り落とす。お隣りのヤードに切り落としてはいけないので、枝の先の方にひもを括り付け、私が引っ張ることにする。1時間ほど格闘して、作業を終えた。
さて、アンテナをおおよその方角にむけて、ケーブルをつないでみる。???少しずつアンテナの向きを変えてみる。???時折12%という数字が画面に出るだけである。「かあちゃん、やってみてくれ。240度に合わせるんだぞ」私がやっても???うーん。おかしいなあ。きこり(私も枝1本切ったのよ)で疲れた私は、半ばやけになって260度くらいまでグーッと動かした。「30、35、38!!!!!」おとうが叫ぶ。「え?でも、240度じゃないよ」しばしの沈黙の後、おとうは「しまった」とつぶやいた。
おとうはアンテナを買う前に、あらかじめ方向を調べて取り付けられるという確信を持っていた。だから、木を切らなければいけないというのは予想外だったそうな。理由は、説明されれば簡単である。おとうは、デッキにアンテナを取り付けた。そしてそのそばに方位磁石を置いた。アンテナの支柱は鉄でできている。また、アンテナからでているケーブルには電流が流れている。それらで、磁石は狂っていたというわけなのだ。「げげっ、木は切らなくても良かったってえことだなあ。」おとうはガックリと肩を落として言った。骨折り損の「きこり」なのだった。