柔らかいパンが食べたい!



 一時帰国した時、ガキンチョとよくパン屋に行った。「アメリカの主食はパン。久しぶりの日本ではお米を食べたがるに違いない。」と考えていたジジババは、とても驚いていた。

 だいたい食事に関しては、それが立派な文化として発展した日本と違って、ここでは単にエネルギー源として、あるいはディナー・パーティーなどのようにコミュニケーションの一手段として考えられているようである。「日本人は模倣してばかり」という言い方をされる。確かに中国や朝鮮半島、ポルトガル、近年は欧米からの技術や知識を取り入れ、発展させてきたのが日本の文化である。想像力より応用が得意だと評価される。

 しかし、アンパン、カレーパンにとどまらず、多分何百という種類のパンを工夫した日本人の応用力を「えらい!」と私は思う。パンに何かをはさむっていったって、ホットドッグやサブがせいぜい。だいたい、アメリカには日本のようなサンドイッチはないのよ。もともとサンドイッチはイギリスで、チェスだかカードだか、遊びながらつまめる軽食として生まれたもののようだ。ところが、アメリカでサンドイッチというと普通はハンバーガーを指す。私は日本のハンバーガー屋で、ついうっかり「フィッシュサンドイッチ」と言ったらしく怪訝な顔をされた。店員サンはしばしの沈黙の後「フィッシュバーガーですか?」と聞き直したので、気がついたのだけれど…。アメリカで薄くスライスした食パンを使ったサンドイッチは「ピーナツバター・ジェリー・サンドイッチ」が一般的だ。これに関しては、以前にも触れたことがあるが、日本のピーナッツバターが甘いピーナッツクリームと呼ぶにふさわしいものであるに対して、アメリカのはしょっぱい「バター」に他ならない。バターとジャムのサンドイッチなのだ。これは、学校へ持っていくランチの定番であり、家出する時にもリュックに忍ばせるのである。

 さて、日本のパン屋で、暇な母はこうして食文化を考えながらどっさりとパンを買ってしまったが、アメリカでも日本で買ったようなパンをいつでも食べたいのである。そう思いながら、早3年。例えば食パンはこのベーカリー、ホットドッグ用はここ、といったような「行き付け」はできたのだけれど、はやり「調理パン」「菓子パン」は望めない。グローサリーで筒に入ったパン種や、冷凍の種が売っていて、それらは日本の味に近くなる。ところが6人家族では、それを利用するには経済的にも負担になってしまう。手作りするしかないらしい。

 この3年間、手作りパンはしょっちゅう作っていた。ところがいつも日本で作っていた時と比べて、パサパサしているし、さめると固くなってしまうし、決して満足できる物ではなかったのよ。粉が違うのか、イーストが違うのか。卵を入れてみたり、牛乳を使ったり、スキムミルクにしたり、イーストの量を変えてみたり、いろんなことをしたのだけれど、納得できるものにはならなかった。で、今日は発酵時間を変えてみることにした。日本では40分から、まあ寒い時でも1時間弱で発酵していた。今日は10分毎に発酵状態をチェックしようと思ったのだ。

 今日は部屋の温度が高かったようで、いつもよりバターも柔らかかった。生地をこねて大きな鍋に移し、蓋をする。10分後にはけっこう膨らんでいる。で、その5分後にもう一度のぞいてみると、すっかり発酵しているではないか。私はあわてて生地を取り出した。その後の成形段階でも、少しずつ発酵がすすみ、日本で作った時のようにふんわり、やわらかな生地になった。これまで、発酵させすぎていたのがいけなかったのかもしれない。結局、残念なことだが焼く時に、底を焦がしてしまったのだけれど、この3年の中ではもっとも良いパンになった。

いつも「パンっつうのは、もうちょっとやわらかくなくっちゃなあ。」が口癖だったおとう。今回は「パンはもっと歯ごたえがなくちゃなあ。」とのたもうた。あまのじゃくもいいかげんにしてちょうだい!こーゆーヤツは放っておくに限るのだ。