寄付はお断り、したかった



 寄付に付いていたクーポンで予約された日に近所の消防署に行った。これがどこぞの美容院だったり、写真館だったら、行かなかったと思う。日本じゃ、ひところ「消防署の方から来ました」と本当は消防署とは関係無い業者が消火器を売りつけたりしてたけど、今回は消防署が会場だ。まさかね。

 メークに手間取っているとかでだいぶ待たなきゃいけなかった。のんとみーはとんが買い物に連れて行った。ちーとかおだけならメーク室にも入れるかもしれない。もうすぐ番が来るというところでおとう達が戻って来てしまった。しかたなく私一人で部屋にいった。鏡がない!メークが3人ヘアが1人。一番奥の椅子に案内された。「今までにグラマーフォトを撮ったことがありますか?」うんにゃ!「写真の為だから、少しきついメークになります。」お手柔らかに!

 いつも化粧というのは2分かからないでしている。他にどうやって時間をかけていいか解らない。ここは日ざしがとにかく強いから、その対策までにしているだけなのだ。なのに30分は何かしら塗りたくっていた。目をつぶっていろというから何色のアイシャドーを付けているのかさえ皆目見当がつかない。どぎつい化粧をしたおばさんが部屋に来て言った。「ノリコ、とってもすてきよ。」そばでメークをしてもらっていた女の子が笑っている。含んだような笑い。嫌な予感。それにしてもどこかで見たような顔だ。どうして私の名前を知ってるの?ややっ!あれは寄付集めに来たおばさんじゃないか!すんごい変身振り!いったいなんなの?ますます嫌な予感。やっとヘアの番になった。

 手鏡が出てきた。
 ぎゃーーーーーーーーーーーー!!
 でたーーーーーーーーーーーー!!

 お化けか魔女か、この世のものとはとうてい思えない物体がみえた。あたしゃ、消えてしまいたい。

 なのに写真屋のおっさんは「きれいだ。だんなにキスしなくちゃね。」だと。冗談じゃない。こんな顔でそばに寄ろうものなら、気の小さなおとうは夜中にウナされてしまうだろう。がきんちょが入ってきた。ちーの顔から笑いが消えた。かおは「こんなの嫌だ。落として!」と怒る。のんは「どうしちゃったの?」と泣きそう。みーは引きつった顔で後ずさりをしている。あたしゃ、消えてしまいたい。

 なんと5ー6ポーズも撮られた。1週間後に取りにいったら、タダでくれるのは1枚だけ。しかも指定されている。「このすてきなフレームに入れると、グッと引き立つでしょ?」話している間にフレームを持って帰る人がいる。家族の写真を受け取りに行ったときもやっぱりフレームを抱えて出て行った人がいる。サクラに違いない。あたしゃ、もう2度とこんな写真は取るつもりはない。冥途の土産に買っておくか。84ドル75セント。タダのも入れて4枚で。これは相場の3ー5倍ってとこか。「買わなかったのは破って捨ててくれるの?」と聞いた。あんなのこの世のどこかに存在すると思っただけで、安心して眠れない。「いいえ、来年また思い出して戴けるように取っておきます。」げー!もう来るもんか!

 ハローウィンが近づいてきた。お化けや魔女が飾られているのを見てがきんちょが言った。「ねえ、お母さん、またあんなふうにお化粧してみたら?受けるよ、キット!」思い出させないでよ。あたしゃ、消えてしまいたい。