瞬間芸コンサート



 この学校群では、すべての5年生は、音楽の授業で弦楽器、吹奏楽、特に楽器を使わない(学校のキーボードくらいは使うらしいが)クラスの3つの中からひとつを選択する。弦楽器や吹奏楽を選択した場合は楽器が必要で、月25ドルほどで借りるか、買い取るかして調達する。チーはバイオリンを選んだのだけれど、クラスは11人だという。音楽の時間は週たった2回しかない。それでも、年度末のPTAではこの11人が発表会で演奏する。

 さて、先日学校群のストリングスの全生徒(8つの小学校)を集めての発表会が開かれた。全生徒とはいっても、一応オーディションがあって、特にひどい場合は出場できないが。ハイスクールのカフェテリアが会場である。5年生と6年生が演奏するのだけれど、7時から7時30分までの、ほとんど瞬間芸である。リハーサルが3時45分からなので、3時ちょっとすぎにガキンチョ4人を連れて家を出る。

 ハイスクールは「会社みたい!」とガキンチョが言うとおり、駐車場に車がズラーッと並んでいた。そう、高校生は自分で車を運転して学校へくるのよ!親が送り迎えしているのはまばらである。カフェテリアには、ステージの上ではなく、観客と同じフロアに2つのオーケストラ(5年生用と6年生用)の椅子が並べられていた。カフェテリアの後ろの方では高校生達がまだ何かしている。本来そこいらに荷物や夕食のデザートなどを置くはずなのだ。私はボランティアでクッキーをどっさり焼いてきたのに、置き場所がない。先生方が来て「適当に座りなさい」と子供たちに言う。ある先生がチーに「ここに座って」と声をかけた。ヤヤッ!そこはコンサートマスターの場所じゃない?近寄ってチーに「ねえ、本番でもここに座るの?」と聞いた。「知らないよ。ここにすわれって、今言われたばかりだもの」チーはそこがどういう場所なのかまったく理解していない様子。クッキーを指定された椅子の上に置いて、私とカオ、ノン、ミーは引き上げた。

 軽い夕食を取って6時ちょっとすぎに家を出る。前から3列目に場所を確保。でも、同じフロアだし、こっちの人は皆でかいから、見えなくなってしまうのは必定だ。でも、チーはコンサートマスターの場所にいた!目立つところでうれしい!

 7時ちょっと前になってチューニングが始まる。オーケストラのチューニングって大好き。初心者ばかりのガキンチョ・オーケストラでも人数が多いので結構な音量で、ゾクゾクしてしまう。チューニングと指慣らしをかねて、まず5年生のオーケストラがニ長調の音階を弾く。次に6年生たち。5年生の先生が4拍ずつでするように言う。が、5年生にはわからなかったようでバラバラになってしまった。6年生の先生が「私達はできるわよ!」とやって見せる。5年生の先生は闘争心丸出しでタクトを振る。今度は5年生も旨く出来た。6年生の先生は「私達はこんなに大きな音が出せる!」と言ってニ長調。5年生の先生はチーのバイオリンを手に取ると「いい?このブリッジの近くを弾くのよ!」5年生もなかなか。

 5年生と6年生は合わせて289人である。人数が多すぎてステージに乗り切らなかったのだ。それに音響を考えても同じフロアーの方がいいのだと一人の先生が説明してくれた。初めて顔を合わせる子供たちが、多くの子供にとっては初めての人のタクトで合奏するのだ。無謀ではあるが、楽しそう。5年生と6年生、3曲ずつのレパートリーを披露して、あっという間にコンサートは終わった。5年生は、見ていてもいい加減に弾いている子が何人もいて、個人差が大きいのだということがよく分かった。6年生は全般的に上達しているが、2曲めにシンコペーションが使われていて、難しいリズムになると音程やボウイングがおろそかになった。11人のクラスは指導を受けるには悪い規模ではないが、合奏の醍醐味からは程遠い。この人数での迫力は、子供たちにはとても良い経験であろう。

 翌日の音楽の時間はコンサートの反省会だったそうな。「夕飯のピザがたらなかった」というのが全員の一致した意見だという。一人3ドル払い込んであったのだが、他の学校の子供たちがどっさり食べてしまって(学校毎に注文して、ちゃんと分けておいたのに)、みんな一切れしか食べられなかったのだ。が、その中でたった一人3切れ食べたヤツがいた。お母さんが付き添いのボランティアで、自分の子供の分だけ確保したんだという。「あいつはずるい!」これが次に多かった意見だそうな。私の焼いたクッキーも半分以上なくなっていたと聞かされて、ちょっとがっかり。ストロベリー風味のチョコチップクッキーだったのよ!まあ、クッキーは年度末にまたどっさり焼いてあげよう。

先生はチーがコンサートマスターの場所(Hot seatと言うんだそうだ)に座ったのがうれしかったという。カメラを持っていなくて残念だったとも。いい写真が撮れていたら、一枚進呈することにしよう!