蟻の恐怖 その2
医者はHospitalがどうのこうのと言っている。よく聞くと、私を病院へ連れていくかもしれないというのだ。アメリカの医療体制は日本と違い、まず開業医にかかり、医者が必要と判断したときに限って、病院に行くのだ。冗談じゃないよ、あたしゃお昼ご飯が食べたいよ!ため息をつく私に髭先生はもう一回待っててくれ、と出て行った。3人の医者達は廊下でしきりに議論している。髭先生の声はよく聞こえる。日本語だったらきっと解っただろうに。だいぶ待たされた。
彼は「こういう治療をするから・・・」と私が足を伸ばして座っているベッドの紙のシーツに何やら書きはじめた。紙のシーツはまくらの上で、巨大トイレットペーパーのように巻かれていて、一人が診察を終える度に裾からひっぱっってちぎるのだ。結局私は病院へ連れて行かれずに済むことになったようだ。注射をするって?3本だって?恐怖の太股ショットか?子供が予防注射で大泣きしてたナー。医者が説明していると看護婦が入ってきて「ご主人は一緒じゃないの?ご主人は英語が出来るんでしょ?」はい、そりゃ私よりはね。髭先生は「どっちでもいいよ」とそっけない。「マクドナルドへ行ってるかもしれないけど」と言っている間に看護婦はおとうとのん、みーを連れて入ってきた。髭先生はまた"very serious"といった。
私の受けた処置は抗生物質とステロイドと破傷風の注射だった。肩に破傷風。そして何とおしりに2本。とほほ・・・・。「20分はショックが起きないか様子をみるためにロビーにいてください。」看護婦はいった。そして「これから2日間は右足を心臓より高くしてソックスをはいて温めて寝てください。」おとうは「夜だけ?」と。「いいえ、出来るかぎりずっと」ああ、良かった。おとうは自分で聞いてないときっと信用しなかったに違いない。
20分して処方せんをもらって、一番近い薬局へいく。痛いから急いで欲しいのに薬剤師の東南アジア系とおぼしきおじさんは「日本人か?中国人か?」と聞く。日本人よ。「一回、1日だけ寄ったことあるんだ。山にいった。特別の山。なんていったっけ?そうそう、フジ。」そんなこといいから急いでよ。
家につくと、もうちー、かおのお迎えの時間だ。おとうに行ってもらう。おとうは今日はほとんど仕事にならなかったろう。ごめんね。
「イヤー、参ったよ。看護婦さんがね、おしりに注射するときね、お母さんはね、おしりを出して両手でペッチーンと小錦みたいにひっぱたいてね・・・・・・ひーひひひ。」おとうはちー、かおに説明している。おとうは涙を浮かべて、呼吸困難を起こしながらゲラゲラ笑っている。何だって?誰がおしりをぴっぱたいたって?勝手に話を作るんじゃない。
ステロイドの副作用でほとんど眠れずつらい。2日後に診察にいくとあと2日は足を上げて寝ていろという。主婦はそんなことしていられないのよ。急に寒くなったから冬物を出さなきゃいけないし、毛布を日に当てたい。ハローウィンの飾りも買わなきゃ・・・。Wal-Martで買い物をしていると足が痛くなってしまった。医者のいうことは聞かなきゃいけないのだ。車に乗り込んで右足をダッシュボードにのせた。ひどいカッコウであるがしかたない。
おとうがいった。「スズメバチみたいに次はショック死なんてことないだろうな。蟻に噛まれてその場で死んだら困るな。」やっぱり心配してくれてたのかな?
「重くてはこべねーよ」
く、く、く、く・そ・じ・じ・い!!!!!!!!!!!!!!!!