夫婦の溝



ある春休みの日、昼ご飯を終えて「さあて、晩ご飯は何にしよう」と私はつぶやいた。目の前に出ているものをただ黙々と食べるだけの人にとっては、満腹時に次の食事のことを口にするなど、もっての外としか思えないかもしれない。が、専業主婦は(というか、食い気ばかりの私は、というべきか)いつでも次の食事が気にかかるのよ。

とにかく、おとうは「春休みくらい外食にしてくれ。たまには旨いもんを食いたい」と言った。口の悪いおとうのことだから、これはきっといつも頑張っている主婦にたまには楽をさせてやりたいという意味なんだと思う。しかし、こういう善意に解釈するという行為が、あるいは完全に誤解しているという事実が、もしかすると夫婦の溝をじわじわと深くしているのかもしれない。

その日の晩、おとうは風呂上がりに綿棒で耳の掃除をしていた。私はうっかりおとうにぶつかってしまった。おとうとガキンチョの間を擦り抜けられるとふんでいたのだが、私が自分で思っている以上にでかかったのか、おとうの腕が少し動いたのか、よくわからない。おとうは私が昼の一件を根に持ってわざとぶつかったと思ってるんじゃなかろうか?これでさらに夫婦の溝が深くなったかもしれない。もしかすると、私の潜在意識の中におとうへの恨みがたまっていて、知らず知らすのうちにぶつかったのかもしれない!!!

おやおや、こんな事をぼやくようになるとは、私も暇をもてあました主婦と思われてもしょうがないよねえ。実際のところ、おとうは自分の発言が私の神経を逆なでしたことすら気づいちゃいない。だけど、私の料理をたんまり食べた直後に「たまには旨いものを食いたい」という癖だけはやめてほしいのよ。なんだかやる気が出なくなるのよね。今はガキンチョがいるから、さほどひどい手抜きはしないけれど、これが夫婦二人きりになったら、どうなるかは保証できない。「誉めて育てろ」は何もガキンチョだけじゃないんだぞ!とんちゃん!