蟻の恐怖



 たかが蟻ごときで医者に行ってたまるか!蟻に噛まれる度にそう叫んで耐えていた。何日か眠れぬ夜を過ごし、おとうに腫れたのを笑われながら、我慢していた。ところが今回はちと様子がおかしかった。

 学校のブックフェアーを覗いて帰る途中、右足の甲を蟻に噛まれたのだ。この時は偶然、手を繋いでいたみーの足元をみたので、蟻が食らいつく瞬間を目撃した。おとうは足首のみならず膝まで噛まれる子供や私をのろまと評した。「おめえたちは蟻が登ってくるのがわっかんねーのか?」と言うのだ。が、しかし、子供が何度も訴えていたように、蟻は飛びつくのだった。食らいつく、と表現したけれど、本当にものすごい迫力なのだ。さっと手で払っただけじゃおっこちない。べっちーんと思いっきり叩き潰さなきゃ駄目なのよ!

 さて、私の足だが、その晩は痛いという感覚が痒みより勝っていた。翌朝はつんつるてんに腫れていた。いつもは痒いのに、ひどい打ち身の様に痛かった。10時20分ののんのお迎えに靴がなかなか入らなかった。無理してつっこんで行ったが、帰ってからとても痛かった。11時におとうが電話をくれた。「医者へ行った方がいいんじゃないか?試しに予約のいらないとこへさ。」いつもなら「平気、平気、」というのだけれど今回は「そうするか」と答えた。この時はおとうにも内緒にしていたのだけれど、噛まれた方の足の付け根が痛んでいたのだ。

 医者で待つこと20分。体重を計った後で看護婦が熱と血圧と脈を計り、問診をした。しきりに注射を受けているかと効いている。Tet?あたしゃ英語は嫌いだよ。看護婦はあきらめて出て行った。続いて髭づらの医者。声がでかい。足をみたとたんうなってしまった。"very serious"この日彼はこの言葉を何度口にしたであろうか。そしてまた彼も注射を打っているかと尋ねる。

 "Tet?"わっかんねー!と答えると出て行った。次に女医。また注射の話が出た。こりゃ、ちゃんと調べた方がよさそうだ。痛くて動くのが嫌なんだけど、「辞書で調べるからスペルを教えてください」と椅子に置いてあるバッグのところにいった。なんと破傷風の予防注射を言っていたのだ。「子供のときに受けた!」と答えると「過去5年間に受けていないのか?」そりゃ、そうよ。え?これおとなも受ける予防注射?彼女は出て行き、入れ違いに年配の女医。"Oh, my God" と言って出て行った。

 ようやく今日の私の担当であろう髭先生がやってきた。”It's very serious. We discussed about_____." 何だか厄介なことになった来たようだ。頼りにならないことに、医者嫌いのおとうはのんとみーを連れてマクドナルドへ行ってしまっていた。誰か助けて!