春の苦労 おまけ

 ガーデニングは気持ちのいいものだったけれど、重労働という以外にもうひとつ、厄介なことが起こった。Ant biteである。今回は私ではなく、おとうがやられたのだ。

西側の草取りの最中に蟻がごっそり出てきたが、私はものすごいアレルギーががあるため、薬を撒いて、そこはおとうがすることになった。薬を撒いても、瞬間的に蟻が退治できるわけではない。それはおとうだって分かっていたはずなのだが、おとうは蟻をみくびっていた。私のアレルギーは特別なもので、自分には起きるはずがない、と思い込んでいたに違いない。だから、私が蟻に噛まれるたびに、不注意をなじり、腫れ上がった傷を汚らしいと表現し、お尻に注射したことを目に涙を溜めて思い出し笑いをしていたのだ。そのおとうが、今回初めて、水泡が出来るほどひどくやられたのだ。

ひどいとはいえ、私のひどさの足元にも及ばないが、あまりの痒さに、「これは何とかしなければ」と思ったようである。昼休みにヤードのゴミを捨てに行った帰り(あまりに重いゴミなので、ふたりがかりで捨てに行ったのよ)、一番近いXストアの薬局に寄ったのだ。薬がズラッと並んでいるのを眺めながら、おとうは「おい、ちょっと聞いて来いよ」とのたまう。自分のことは自分で聞いて欲しいものだが、この手の会話は私の方が回数をこなしているだけあって、得意かもしれない。で、しゃあない、薬剤師のおねえさんに聞いてみた。彼女が挙げた薬はどれも私が試してさほど効果がないと思っているものばかりである。それを言うと「すっきりと痒みを止める薬はないのよ。ちょっと楽になるくらいしか効かないわ。」という。妻の進言に渋々従って、おとうは抗ヒスタミンの塗り薬と水泡が破れた時のためにガーゼとバンソウコウを買うことに同意した。

おとうは薬が効かないのを自分の体でやっと理解したらしい。そして、あれこれ工夫をはじめた。おとうがたどり着いたのは、次の方法である。まず、重曹を水で溶かし、噛まれた手を浸す。15分間だそうな。「これで蟻酸を中和させるのだ。」で、その後、抗生物質入りの塗り薬を使い、ガーゼで押さえた。「これが一番だな。」確かに翌朝になると脹れはひいているし、水泡も消えている。最初からそれだけのアレルギーだった可能性もあるけれど、まあ、良い方法が見付かったというなら、こりゃ福音には違いない。私が効き目を試さなければいけないような状況に出会わないことを切に願ってはいるけれど。

その日、私は玄関のそばで蟻に似た虫を見つけた。1センチ以上の体長である。で、あまりの恐ろしさによく見もせずにティッシュにくるんでしまった。おとうは「確かめずにどうするんだ」と私からティッシュをとりあげた。「まだ潰してないよ」と言った次の瞬間、おとうは「ぎゃーっ!」と悲鳴をあげて、ティッシュを放り出した。結局、蟻だかどうだかわからないまま、ティッシュにくるんで潰して、サランラップで包み、ガムテープでぐるぐる巻きにした。おとうは言った。「あんなでっかいのが本当に蟻だって言うのなら、俺は日本に帰るぞ!」蟻アレルギーの辛さ、少しは分かってくれたみたい。その点は収穫だと思うんだけどなあ。