眼科医は商売上手



 チーを眼の医者に連れて行った。スクール・ナースにリストアップしてもらった眼科医の中から、地理的に一番近いところに電話を入れて3週間。ようやくその日が来たのだ。この辺りでは、初診の場合2―3週間待たされることは珍しくない。カオの歯医者の時は「放課後」というと3ヶ月後と言われたくらいなのだ。もっとも、眼科の場合、緊急を要する病気もあるわけで、今回も受診の理由を聞かれての3週間待ちなのだ。

  この眼科医は予約を入れると初診の際に必要な調査表などの書類を郵送してくれた。毎回、辞書を片手に四苦八苦していた私には何よりうれしかった。医学用語は、日本人が持っている普通の辞書には載っていないものが多い。インターネットと言う便利な物があるからいいものの、医者へ行っていきなり渡されても困るというものよ。

医院は車で10分足らず。2時30分の予約だが、ちょっと早めに着きたいので、上3人にはバス・ライダーと一緒に外へ出るよう先生にメモを持たせた。通常ミーは2時に出て来て、バスライダーは2時10分、車や徒歩組は2時15分。チーは特に、校舎の端っこに教室があるので、私の所に来るのはたいてい20分になっている。バスは車・徒歩組が出るより前に出発するので、たった5分早く教室を出るだけでだいぶ違うのよ。

強風の中、車をぶっ飛ばして2時22分到着。受け付けのあとほどなく検査室に。チーが視力検査をしている間、他のガキンチョは折り紙に精を出している。次、受け付けの待合室とは別の待合室で待つこと10分。いよいよ診察室へ通される。「いつか風邪で行ったお医者さんでは、ここで30分待たされたんだよね。」「忘れられたかと思っちゃったよね。」嫌な予感。15分ほどで、鼻にかかった声のドクターが入ってくる。ここいらのドクターは日本の多くの医者と違って愛想がものすごくいい。ドクター・カイスラーもとてつもなく愛想がいい。こりゃ、商売も上手に違いない。

医者の診断は予想通り「近視」である。眼鏡が必要だという。黒板の字やオーバーヘッドが見えないと言ってたから、それは仕方のないことだろう。が、ドクターは「他の子はどうかな?クイック・チェックをしよう」といって、カオ・ノン・ミーの視力まで計ったのよ。カオの左目がちょっと弱いのは気づいていたのだけれど、案の定「この子は詳しいチェックが必要だ。予約を取りましょう。」となってしまった。やっぱり商売上手なんだってば。

このあと、待合室の横にある眼鏡売り場へ。処方箋だけ貰って、安い眼鏡屋へ行く手もあるが、「金より時間を節約せよ」とおとうが言っていた。チーはフレームについている値札を気にしている。「値段より、似合うフレームを選んでちょうだい」だって、チーは眼鏡が嫌で、夕べもベッドの中で泣いていたくらいなんだもの。せっかく作っても使ってくれなかったら困ってしまう。レンズを含めて208ドルほどになった。チーは「高い!」とふくれている

診察室のそばの待合室で待っていると前に座ったおじいさんが話しかけてくる。おじいさんのとなりにはかわいいクマの縫いぐるみ。おじいさんはあばら骨を取ってしまっていて、ひどい咳をするととても痛いんだそうだ。その時その縫いぐるみをぎゅっと抱きしめていると痛みが和らぐという。「ほら」といってクマの背中を見せてくれた。クマが着ているベストには「抱きしめて、ぎゅっと抱きしめて。咳をする時助けてあげるから。」と書いてあった。時折、胸が苦しくて眠れないという私の父に効くといいのだけれど、あのクマの縫いぐるみ。

もう一度診察室へ。前にドクターが瞳孔を開く目薬を指しておいたのだ。チーの眼は健康で奇麗だと言った。私達がアメリカへ来ておよそ3年と知ると「たった3年ででこんなに英語が上手いのか?」とチーをみて言う。お世辞も上手ね。

会計でまた一もめ。おとうの会社が契約している保険会社がリストにないという。カードに書いてある電話じゃあ、ラチがあかないという。保険会社は最近契約したばかりりのところで、おとうも電話をしたがいつもハナシ中でつながらないとこぼしていた。だから、予想はしていたんだけれどね。

結局2時間半よ。5日後にカオの予約が入っているから、また行かなくっちゃ。検査料含めて、およそ300ドル。眼鏡は1週間ほどで出来るという。疲れたなあ。