人種差別
1月15日はMartin Luther King Jr.の誕生日である。1月の第3月曜日はMartin Luther King Jr. Dayで祝日になっている。アメリカでは祝日も州によって休みになったり、ならなかったりする。サウスカロライナの学校は休みである。
その前日、テレビで映画を見た。カオのクラスで読んだ本が映画で放映されることになって、担任のミセス・アレキサンダーからメモが送られてきたのだった。(カオはメモを出すのを忘れて、夕飯を食べに行ったファーストフード店でいきなり言い出したのよ。)
映画はThe Story of Ruby Bridgesという題名で、ニュー・オーリンズの、それまで白人しか通っていなかった小学校に入学することになった黒人の女の子を主人公としている。Ruby Bridgesというその6才の子が、どうしてその学校に行くことになったのか、最初の7分ほどを見逃してしまったので、定かではない。だが、白人達からものすごい反対運動が起き、Rubyはパトカーに先導され、白人の警察官に囲まれて登校することになる。他の生徒たちは登校をボイコットし、教師たちも遠くから冷たい視線を投げるだけである。さて、この話はどのくらい昔の物語だと思いますか?
画面のパトカーや服装は、私を驚かせた。そんな昔のことではないのだ。なんと1960年と新聞に出ていた。カオがクラスで勉強した時も、ミセス・アレキサンダーは「私が子供の頃の話です。大昔のことではないのよ。」と言ったそうである。奴隷解放宣言が出されたのが130年ほど前。それから100年近く、奴隷制度は確かに違法になったけれど、平等からは程遠い実態があったのだと想像できる。
人種差別反対の市民運動が大きなうねりへと発展したのは、1955年12月のRosa Parksの逮捕がきっかけだと言われている。それに先立つ1948年、大統領だったTrumanは、軍と政府での人種差別を終わらせた。しかし、一般的には、学校だけではなく、買い物をする店、レストラン、はては公園までも、白人と黒人は分離されていたのだ。Rosaはそういった人種差別をなくしたいと願っていた黒人の女性である。当時バスに乗る際、白人は前、黒人は後ろに座ることが法で決められていた。Rosaはその日、バスに乗って座り、白人が乗ってきた時、その席を明け渡さなかった。彼女は逮捕され、投獄された。当地アラバマ州モンゴメリーでは、黒人のよる「バス・ボイコット」が続けられ、それに対し、黒人たちは家を焼かれたり、さらに激しい迫害を受ける。その中で、市民運動のリーダーになったのがキング牧師なのだ。市民運動によって1964年公共の施設での差別が違法となり、1965年、すべてのアメリカ人に選挙権が認められた。しかし、1963年には人種差別撤廃を唱えていたJ. F. Kennedy大統領が暗殺され、1965年には黒人の指導者の一人であるMalcolm X、さらに1968年、キング牧師が暗殺された。まさに大きな損失を伴っての権利なのだった。
映画の話に戻る。Rubyは父親と白人の経営するグローサリーにミルクを買いに行く。ところが店の人からもう来ないで欲しいと言われる。白人の客にボイコットされてはかなわないから。父親は仕事でもボスや仲間にいじめを受け、職を変えなければならなかった。同じ黒人であるのに隣人からも疎まれるようになる。学校へ入る時、護衛の刑事から「決して後ろを振り向いてはいけない。」と言われていた。が、ある日、Rubyを激しくののしる白人たちを振り向いてRubyは何か言おうとした。彼女を見守っていた白人の児童心理学者が「おこったのか?」とたずねると、Rubyは言った。「お祈りをしたのよ。」そして、聖書の一説をそらんじて祈った。「父よ、彼らをおゆるしください。彼らは何をしているのかわからずにいるのです。…。」(ルカ;23章34節)6歳の罪のない子供に向かって、こぶしをあげ、ありったけの罵声を浴びせる大人の醜さが際立った一瞬であった。
アメリカでは、今でもKKK団が時折事件を起こす。私の目には直接見えないけれど、人種問題が根の深いところで、まだしこりを残しているのは感じられる。でも、アメリカではこういう映画が作られ、日曜日の夜、ゴールデンタイムにテレビで放映されるのだ。そのことに、むしろアメリカ社会の健全さを見たような気がした。ちなみにこれは、Ruby Bridges Hallという44歳の女性の実話を基に、ディズニーがテレビ映画化したものである。