押し売り
我が家は、相変わらず訪問者が多い。ガキンチョの友達が遊びに来るのはいいけれど、私には用のない人が結構来るので、困ってしまう。寄付や押し売りが多いのは、静かで治安のいい住宅街であることのステータスシンボルだとあきらめて、応対することにしているが、最近じゃあ、子供の「押し売り」(これは表現は悪いけれど、幼い子の健気さを売り物にして、気の弱い私を責めるんだもの、あえてこう呼ばせてもらおう。)であっても、中学生以上の、態度がイマイチの場合は断っている。甘過ぎるお菓子はうんざりだしね。断るのって、結構難しい。英語だと特にね、私の場合は。
昨日の夕方、チャイムが鳴った。母はインターネットで新聞を読んでいた。チーが「お母さんに用があるって、知らないオジサンだよ。」と言う。イヤーな予感。オジサンは聞く。Are you a woman of this house?こういう表現、よく電話でも聞くのよね。家政婦やベビーシッターのいる家が多いからなのかなあ?オジサンは私にプラスティックのボトルを渡し、「これはプレゼントだ。ちょっと待って。今荷物を持ってくるから。」と言って、車の方に向かって行った。ボトルを見ると衣類の柔軟仕上げ剤だった。オジサンは大きなトランクを2つ下げて戻ってきた。「この家をきれいにしてあげるよ。デモンストレーションだから、タダでね!25ドルの値打ちがあるんだけれどね。」と言う。私は柔軟仕上げ剤を返して、「我が家では、子供がこの手のモノにアレルギーがあって、使わない。」と言った。(本当よ。)オジサンは「じゃあ、別のものを持ってくるよ。」と言う。何も欲しくない。デモンストレーションもいらない。と言うと、「タダなのに、どうして断る理由があるんだ?」と引き下がる気配はない。向かいの家を指して「あの家もデモンストレーションできれいにしたんだよ。」それでも、とにかく断ると「この年寄りが頼んでいるのに、それなのに断るのか?」と泣き落とし作戦。そんなことに屈してたまるものか。こちらも頑固に断ると、「年寄りが頼んだのに…。」とブツクサ言いながら、やっと引き上げて行った。
勉強部屋の窓から覗くと、オジサンはお隣りに向かった。チーが「ねえ、お隣りは頼んだんじゃない?アメリカではね、お年寄りの頼みっていうと聞く人が多いんだよ。」と言う。「ただで何かをしてもらって、その後で相手の人が何かを売ろうとした時に、ちゃんと断れればいいかもしれない。でも、きっとまた、しつこく売ろうとするでしょ?買う気がないんだから、何もしてもらわなくてもいいと思うな。」と言った。それに、そんなに年寄りには見えなかった。オジサンは2―3分お隣りで粘ったけれど、断られたようだった。
日本にいる時は、ドアフォンで門前払いができた。ここいらで、そういうのはお目にかかったことがない。ドアチェーンも付いていないの。だから、ガバッとドアを開けて応対しなきゃいけないのよ。最初のうちは、英語で喋られることの恐怖感もあって、ビビッていたのだけれど、近頃は少し警戒心に欠けているかもしれない。そう言えば郵便や宅配の荷物も、留守の時はドアの前に置きっぱなしだ。鍵をかけずに出かける人も少なくない。確かに、治安の良いことの現れであろうけれど、裏を返せば無防備で良い狙い目になってしまうんじゃなかろうか。実際、地域で警備会社と契約して24時間のセキュリティー・システムをうたい文句にしている住宅の広告を見かける。いつか紹介した友人の豪邸もそうよ。そのご近所は弁護士やら医者、会社の社長がズラズラ住んでいるってことで、ことさら狙われやすいのかもしれない。アメリカに来て2年半。気のゆるみがあっちこっちで目立ってきたような気がする。ガキンチョにも気を引き締めるように注意しておこう。