料理番組



 衛星放送で、いったい幾つのチャンネルが見られるのか知らないけれど、幾つあっても面白くないものばかりの時がある。みんな寝静まって一人でゆっくりテレビを見ようと思う時に限って、ロクなもんをやっていないとがっかりである。そんな時に偶然見たのがFoodチャンネルであった。

その名の通り、食べ物に関することばかり流しているチャンネルで、その日はラテン系のオジサンが公開で料理を作っていた。このオジサンは、豪快というか、大胆というか、おおざっぱというか、デリカシーにかけるというか、品がないというか、とにかく会席料理のような繊細すぎるくらいの文化を擁する日本人がぶっ飛んでしまうほど派手なパフォーマンスを披露する。シーズニングをBang! と叫びながら放り投げたり、アイスクリームが固まるのを待ちきれないお客さんにアイスキャンディーを放ってやったり。見ているうちに、私だって上品に料理しているわけじゃないんだわ!ということに気がついて、結構楽しくなってきたのよ。以来、時々このオジサンのパフォーマンスをみるようになってしまった。

デザート特集の時は笑ってしまった。レイヤー・アイス・ケーキ(スポンジとアイスクリームを何層にも重ねたもの)を作るのだけれど、焼き上がったスポンジを薄くスライスするところでスポンジがぼそぼそに崩れてしまった。何枚かスライスしようとしたのに、まともに切れない。で、彼はぷっつんしてしまった。ウォーッと吠えながらボウルに粉々になったスポンジとアイスクリームをブッ込んで「これでどうだ。文句があるか!?」と客席に怒鳴る。客は大喜びして黄色い声援。他にも野菜を炒めている時、フライパンをかえしてカッコよく野菜を宙に放りあげた、のはいいのだけれど、そのほとんどがコンロの回りに落ちてしまった。彼はフライパンに向かって激昂し、落ちた野菜をフライパンに拾い入れて料理を続けた。客席に「これは特別旨いぞ!」なんて言いながら。

アメリカの料理のほとんどはこれでもか!っていうほど量がたっぷりである。子供を連れて行けないような、上等なレストランはもしかしたらきれいに品よく盛り付けられているのかもしれないけれど、彼の料理はことさらどっさり、こんもり盛り付けられて、その上何かしらトッピングが投げつけられる。この番組をちらっとみたおとうは「品がねえなあ。」と呆れ返っていたほどである。パフォーマンスとしては最高だけれど、主婦としてはきちんとした料理の番組も見たいなあと思ったのよ。で、次のプログラムも見ることにした。「本当のブイヤベースの作り方」なのだ。

今度のシェフは派手なパフォーマンスはしないし、話し方も静かだし…。「野菜を炒め、魚やえびを入れ、水を入れる。じっくり煮たら…」と言って彼が取り出したのはハンディータイプのプロセッサーだった。「プロはもっと大きなものを使いますが、これでこのまま皆すりつぶします。」ちょっと待ってよー!さっき、体長40センチはあるかと思うくらいデカイ魚を丸ごと入れてたじゃない!目玉ももちろん背びれも尾ひれもついたヤツ。えびだって殻付きよ!彼は言った。「これで骨もつぶしてしまいます。その後でこの目の細かい濾し器で濾すので、なめらかな素晴らしいスープになります。」

英語の苦手な私のことだもの、きっと聞き違いよねえ。聞き違いじゃなきゃ、困るなあ。