爪の垢
今年に入って初めてのミス・ケイのレッスン。久しぶりということもあって、話が弾んだ。なんて言うと「英語が苦手といいながら本当はできるんだな。」と思われてしまうかもしれない。でも、実際はしどろもどろで、何度も言い直して、やっとこさ通じているのよ。日本語だったら15分くらいですむ話が1時間かかるっていう感じかなあ。
話はあちこちに飛んだ。そのうち、ミス・ケイのボーイフレンドの話になった。私も何度か会ったことのあるその彼アンディーは、なんでもしてくれるんだそうな。キッチンのシンクを磨き上げるのから、掃除、片づけ、とにかくミス・ケイに気を使って、頼みもしないうちに「なんでもしてくれる」「ものすごくやさしい」という。そう言えば、ミス・ケイが車に乗る時、サッと回り込んでドアをあけていた。私はおとうの同僚のジムの家に初めて行った時の話をした。「ジムがね、奥さんに何度もThank youを言うのよ。台所にいる奥さんにDo you need my hands?って聞いたのよ!それがカルチャーショックだった。」(この日のテーマは本当はカルチャーショックだったのよ。)
ミス・ケイによると、1940-50年代の特に南部は、男が威張りくさっている家庭が多かったんだそうだ。これはミス・ケイが生まれる前、お母さんが結婚する頃のことだという。「もちろん家庭によってだいぶ違っていたのだけれど…。」前置きして彼女は言った。「妻や子供にありがとうやごめんなさいなんて言わなかったし、家事を手伝うなんてしなかったのよ。夫には逆らえなくて、時には暴力もあったのよ。」
アメリカでは年に何度も妻のためにプレゼントを買い、毎日ありがとうを言い、自分にできることは家事であろうと、育児であろうとどんどんしているのが普通だ。夫だけではなく妻も同様。ジムの奥さんもジムのDo you need my hand? にはNo, but thank you for asking. と答えていた。すごく素敵なことだけれど、疲れた日本人には疲れを増幅することにもなり兼ねない。やさしくされるのは良いけれど、疲れた時にやさしくしなきゃいけないのは大変だもの。ミス・ケイは「それができなくなると離婚するのよ」と言った。さらに、「ノリコもミスター・サイトーにやさしくするように言って、彼を変えていかなくっちゃ!」とそそのかす。「爪の垢を煎じて飲ませる」なんて、英語に直すのが難しそうだから、ミス・ケイには頼めなかったんだけれど、アンディーの爪の垢、貰ってきてくれないかなあ。