食べ物の恨みはデカイのね



 ウチのがきんちょは揃ってソトヅラが良い。父親に似たのはわかっているけれど、学校でもとってーも良い子にしているものだから、家に帰るとものすごく疲れているのよ。3年生以下はBehavior Chartというのがあって、先生に注意されるとそのチャートの色が変わり、バツが与えられる。ところがウチのがきんちょはこれまで先生に怒られた経験が一度もないのだ。しつこい男の子にかまわれても、がきんちょはじっと我慢しているそうな。「そういう時は静かにしていなきゃいけない時間でもデカイ声をあげなさい。それで色が変わったなら、パーティーをしてあげる。」不謹慎かもしれないけれど母はがきんちょにそう言ってるほどなのよ。

そういう風に良い子にしているとやはりどこかで息抜きをしなければいけない。ところが家に帰れば帰ったで補習校の宿題やら通信教育(ちーとかおは半年くらいため込んでいるけれど)が待っていて、余計がきんちょの神経を逆なでする。最近ちーが妹たちにつっかかっていたのも、そういう環境によるところが大きいと思う。

学校から帰るとがきんちょはお腹をすかせている。で、おにぎりやらサンドウィッチを作って食べさせることにしている。その日はチーズとハムのホットサンドを作った。ところが食パンがなくなってしまって、小さく切ったのが一人3切れずつという割り当てになった。大きなお皿にいれて、一人3切れずつであることを言っておいた。不精しないで一人ずつのお皿に入れてやれば良かったと思う。ちーは1切れ食べた後で「ランゲッジの宿題を済ませてから食べるからね。」と言い、勉強をし始めた。ようやく宿題を済ませて台所に戻ってみると、お皿には齧りかけのパンが1切れ残っているだけだった。「だれ―!!!私のパンを食べたのはー!!!」ちーが絶叫する。あまりの迫力にみな驚いて「私じゃない!」と言い残して別の部屋に行ってしまった。ちーは妹たちを追いかけるようにして「私のパン食べた?」と聞いてまわった。ちーは大泣きし始めて手がつけられなくなった。齧りかけのパンは自分のではないと言いながら「もう、食べちゃうからね!」と怒鳴って一口で食べ、また泣き始めた。

30分ほどするとのんが心配そうにやってきた。「のんのんね、お腹がすいていてね、本当言うといくつ食べたかわからないの。」ちーはまだ泣いている。のんのランチは10時半なのだ。お腹がすかない方がおかしい。次にみーがやってきた。「最後のネズカジ(ネズミの齧りかけの意)はみーもんのだったんだよ。でも、いいからね。」それでもちーはおさまらない。さらに30分くらい怒ったところで母はちーのそばに行った。すっかりでかくなったちーをひざに乗せて、「パンを買っておけばよかったね。」と言った。心配でソファの影からちーをずっと見ていたみーが「だから、昨日パンを買おうって言ったんだよ。」「そう、みーが正しかったね。」母のひざは幾つになっても気持ちいいのよ。ちーはようやく笑顔を見せた。

夕飯の後で、ちーはのんに言った。「パンをいくつ食べたか覚えてないの?それで、ちっちの分まで食べたんじゃないかって心配してたんだね。お腹すいてたんだね。怒っちゃってごめんね。」みーにも言った。「みーもんのネズカジ食べちゃってごめんね。心配してくれてありがとうね。」これで、本来のちーに戻ったというわけである。

ちーは最近視力が落ちて黒板が見えないという。で、目のために夜寝る前に空を見ることにしている。寒い時は短い時間しか見られないけれど、星を見ながらちーと話をするのが私にとっても心地よいひとときである。ちーはその日の自分を振り返って「lividだったよね。これ今日リーディングで習った言葉なんだけれど、ものすごーく怒ることなんだ。それにしても、どうしてあんなに怒っちゃったんだろう?」と言った。「疲れてたんだよ、きっと。だから今日は早く寝ようね。」私はそう答えて、ちーの肩を抱いた。