ちー、バイオリンを買う
ちーたち5年生は美術や音楽、体育、スペイン語といった教科(Related Artという)を通常のクラス編成とは別のクラスで勉強している。音楽がブラスとストリングス、普通の音楽の3クラスに分かれたためで、これらはAcceleratedか否かに関係なく構成される。
ブラスかストリングスを選択すると、楽器を買ったり借りたりに費用がかかるし、毎日練習をしなければいけない。体操だダンスだなどという習い事が盛んだから、楽器を習いたくない子供たちも多いようだ。ちーはかねての希望通りバイオリンをすることになった。新学期早々、ストリングス担当のミセス・リッターから手紙が来た。「楽器を借りられる店のリストです。まだどの楽器にするか決めてない人は早く決めてください。でないと、ご両親が楽器を借りに行けませんから。もし楽器を買いたい人がいたら私が見るまで買わないでください。それが無駄遣いをしないコツです」」と書いてあった。ちーは「早く楽器屋サンに行こうよ!」とおとうに言ったけれど、おとうは「早く借りに行けとも、いつまでに用意しろとも書いてないじゃないか。かおやのん、みーが弾くって言ったら、借りるより買った方がいいかもしれないだろ?」と言った。で、もう一度ミセス・リッターと相談してくるようにちーに言い、ちーは翌週のストリングスに楽器無しで出かけた。
その日学校のミセス・リッターから電話があって「とにかく楽器を用意してください。ポストオフィスの裏にある楽器屋サンに行って私の名前を言えば良い楽器をだしてくれますから。そこで買うこともできますよ。」と言う。じゃ、先生に見せないうちに買っていいってことか?なんだかよくわからん。学校から帰ってきたちーにいったい何人の生徒が楽器を持ってきたのか聞いてみた。「誰も持ってこなかったよ。先生がどうして誰も持ってないのかってビックリしてたよ。」あの手紙の真意を理解できなかったのは言葉の壁のモンダイではなかったようだ。
その週末、日本語学校の帰り、ポストオフィスの裏の楽器屋サンに行った。4分の3のバイオリンは品切れだった。先生がくれたリストの別の店を当たるしかあるまい。地図で住所を確かめてビックリ。日本語学校のすぐ近くだった。日曜日は休みなので仕方なく来た道を戻ることにした。「新品はレンタルだと月25ドル、ほとんど新品に近いのは20ドル、中古は15ドルです。云々。」「ちょっと弾いてみていいですか?」とおとう。何と大胆な発言。「ギーーーー」結局、ほとんど新品に近いというヤツを買った。ケースと松脂と弓付きで400ドルほど。いつでも買い戻してくれるそうだ。
次のストリングスの日、10kg以上のブックバックにバイオリンも加わって、ちーの荷物は大変なモノだった。それでも待ちに待ったストリングスだというのでちーはニコニコ出かけて行った。なのに、帰ってきた時はえらいおかんむりだった。「先生はチェロとベースにかかりきりで時間がなくなってね、バイオリンはフタすら開けていないのよ。」そうよね、せめてフタくらいあけて見せたかったよねえ。前途多難を暗示するスタートと言えようか?