事件1
がきんちょがバック・ヤードのブランコ・セットで遊んでいるとき、かおが入ってきて何か言った。文句を言うときはでかい声がでるのだが、こういう消えそうな声は要注意である。
「あのね、かおかおね、のんのんがね・・・・・・・だったからね、だけど、我慢しなくっちゃいけなかったの。だけどね、我慢できなくってね、・・・・・・ちゃったの。あんなことになるって思わなかったの。」注意深くしていてもよく聞き取れない。まずのんの様子を窓から見る。ブランコから落ちたようだ。泣いているが、急を要することではない、と判断した。それよりかおが変だ。涙が流れている。ふるえてもいる。肩をだいてもう一度話しを聞いた。のんがブランコ・セットの小さな鉄棒にひざで逆さにぶら下がっているとき(こうもりっていうの?)、口論になったらしい。そして、かっとしたかおがそこを離れようとして、のんにぶつかって、のんは頭からおっこちてしまった、という。
「我慢しなくっちゃいけなかったのに。」かおがまたいった。もう一度窓から外を見る。懲りないのんは遊んでいる。だいじょうぶそうだ。
我慢しなさい、とは最近私がかおにいうセリフである。ちーと1年8カ月、のんとは1年9カ月違うのだが、比較的体格のよいのんにほとんど追いつかれてしまったかおは、そんな状況にいらだだしさを感じているのかもしれない。時折、荒れるのである。そんなとき私は「我慢」というのだ。ただ我慢しろ、というのではない。いいたいこと(この場合は罵声が多い)カーっとした気持ちをちょっとだけこらえてみなさい、といっているのだ。たとえば、深呼吸でもいいし、好きな縫いぐるみを抱いてもいい。ちょっとだけ気をそらすと落ち着いて、怒鳴らなくても済むかも知れないし、たいしたことじゃなかったって思えるかも知れない。その方が、みんなと仲よくやっていけるし、自分でも気持ちがいい、食べたご飯も力の元になれるっていうものよ!
かおは母のこんなむちゃくちゃともいえる説教をちゃんと聞いていてくれたのだ。ふるえているかおを抱き締めて「びっくりしたんだね。のんのん、大丈夫そうでよかったね。気をつけようね。」といった。
おとうが砂まみれののんを風呂で洗い、擦り傷に薬を塗った。「自分のせいでのんが落ちてしまった」とかおが気にしていることをのんに告げると「違うよ、のんのんの足が滑っちゃったんだよ。かおかおはなんにもしてないよ。ぶつかってもいないよ」とにこにこしていう。真実はどうなのかわからないけれど、無鉄砲なのんと、ちょっぴり短気なかおにヒヤッとさせられた出来事であった。