国境のないのは料理と音楽
チャイニーズ・レストランはとにかくたくさんある。安くて、旨くて、がきんちょがいても気を使わなくてすむし、野菜がいっぱい食べられる。特にバフェ(セルフサービスの食べ放題)なら待たずにすぐ食べられるのだ。
たくさんあるレストランだが、そこではたいてい音楽が流れている。いわゆる歌謡曲がほとんどで、中国語の歌が付いていたり、いなかったり。私もおとうもその手の音楽には詳しくないのだけれど、ほとんどが日本の歌謡曲なのだ。おとうの同僚(台湾出身)の家に行ったときも、テレサ・テンのCDを聴かせてくれた。全部中国語だったけれど、そのうちの何曲かは日本の歌だった。音楽には国境はないという事なのだろうか?
先日、がきんちょが日本語補習校へ行っている間、おとうと中華を食べにいった。このごろ私は御無沙汰しているお店なのだが、おとうによると最近バフェを始めたそうで、行ってみることにしたのだ。そのお店で流れていたのはやはり日本の曲だった。「昴」のメロディーを奏でていたのは、あれは胡弓という楽器なのだろうか。とてもせつない音色であった。
補習校へ迎えに行くと食堂は中国語であふれていた。いつもは土曜にある補習校だが、大学の都合で教室が使えず、年に1ー2回は日曜に振り替えられる。日曜の午後は中国語の補習校があって、彼らは子供たちを送ってきたところなのだ。
アメリカでは知らない人でも目が合ったり、モールのドアで行き違うときなどは挨拶をする。ところがその日、大学の食堂で私は誰とも挨拶をしなかった。中国人達は私と目を合わせることなく過ぎて行った。しばらくして、一人が「校長と話がしたい」とおとうに声をかけてきた。彼らは日本語補習校が振り替えられ、中国語補習校と同じ教室を使い、しかも30分かち合ってしまうことを誰も知らなかったのだった。だから、日本人に反感にも似た気持ちを持って無視したのかも知れない。
それにしても、私の方から声をかければ良かったんだ。音楽には国境はないのに、生身の人間になるととたんにこれだもの。イヤになっちゃう!