コメット・ウィドー



 去年ののんの担任、ミセス・スミスは「私はフットボール・ウィドーなのよ」と言ったことがある。「私はコンピューター・ウィドーよ。」と答えたら、「フットボールにはシーズンオフがあるけれど・・・」と同情してくれたっけ。もし今、答えるとしたらきっと「私はコメット・ウィドーなのよ」と言うだろう。

 今世紀最大級と言われる「ヘール・ボップ彗星」がやってきた。いまは太陽から遠ざかる一方になってしまったけれど、星好きのおとうはもとより仮性近視のがきんちょにとっても良い機会である。夜の8時頃、玄関のポーチからとてもよく見える。ここは東京よりずっと空がきれいで星がいっぱい見える。ここに来て間もなく、がきんちょは「アメリカって星がたくさんあるんだね」と言った。本当は同じ空なんだけれどね。

 おとうは2月にカリフォルニアに出張したが、そのときも1眼レフのカメラ(おとうが高校生の時中古で買ったそうな)と三脚を持って行って、すてきな写真を撮ってきた。サンディエゴは何度か行ったことがあるとはいえ、ここより治安が悪いんじゃなかろうかと、本当は気が気ではなかった。そもそも星って暗いときしか見えないのだからタチが悪い!星に当たり散らしても仕方がないのだけれど・・・。

 無事に帰ってきたおとうはまず、「キズが付いている、埃だらけ、指紋をつけやがったな!」とぶつくさ言いながら、ネガを穴があくほどながめる。コレ!というもの何枚かをプリントする。色や構図を見比べて、見比べて、見比べて・・・・・・。食事も上の空。会社へ行ってたはずなのに、毎日違うプリントを持ち帰ってくる。ちゃんと仕事をしてるのかな?

 そうこうしているうちにも晴れている日に彗星は顔を見せる。バックヤードやら、学校の駐車場へ行っては写真を撮る。太陽に最接近する頃、今度は市街地の灯かりのないところで撮りたいと言い出した。「ダムへ行こう!春休みだしナー」という事になった。

 その日、6時には出発出来るようになんと4時半には食事の用意ができていた。ところがおとうは会社の人二人を連れて行ってしまったのだった。私とがきんちょは置いてけぼり。がきんちょは「春休みだって言うのにどっこへも連れていってくれない!」「約束が違うじゃないのヨー!」とおかんむりだ。私にもいいたいことがある。

 ちょっとー!私をこれ以上ウィドーにしないで頂戴ヨー!いい加減にしないとお尻をひっぱたくくらいじゃすまないぞー!