ぽぽこ その2
その犬はとてもいい子だった。隣の犬がとにかくよく吠えるので、無駄吠えをしないのが気にいった。雑種だが、何より性格が一番ものをいうのだから、気にはすまい。みーは恐がっている。確かに小さめの犬だが、みーの背の高さで見るとでかく感じるのだ。犬をバックヤードに放して、幼稚園にのんを迎えに行く。
「ワンワンが来てるよ。仲よしになれそうだったら、うちの子になってもらおうね。」
のんは大急ぎでバックヤードへのドアを開けた。犬はひとなつこく寄ってくる。欲しいと騒いだわりに、寄ってこられると恐いのだろう。
「Move back!」のんは叫んだ。英語だ!そうか、アメリカの犬は英語しか理解しないと思っているんだ。 Move backという表現には驚いた。そういえば映画の中で聞いたことがある。兵隊達に上官が怒鳴っていた。そうか、幼稚園で先生が使っているんだな。
その後ものんはいままで母には聞かせたことのなかった英語で犬に話している。みーもいっちょまえに「No!」と叫んでいる。犬の思わぬ効用である。犬は子供の言うことを素直に聞いて、ちゃんと後ろにさがっておすわりをする。結構、かわいいじゃん!
ちーやかおが帰ってきてまた大騒ぎ。一度でもこうしてかわいがってしまうと、情が移って、返すなんて考えられない。犬を連れてきたねらいはここにあったのか?一応預かるのだからドッグフードくらい用意しなくっちゃ。犬小屋はどうするんだ?やだー!心の準備が出来てない!家は親子6人でいっぱいなので、外で飼わなきゃいけない。犬小屋はおとうが段ボールをくりぬいて作った。気に入ってくれるだろうか?犬は・・・・・はいった!素直で本当に良い子だ!おとうは「俺は知らねえからな。」と逃げ腰だ。子供はもう名前を考えている。「ぽぽこ」に決まったのはその翌日のことであった。
ぽぽこはみんなに好かれた。家族だけではなく、お隣のベッキーと、犬のジャスパーにも。ジャスパーの変化はすさまじかった。ぽぽこをみてひとめぼれしたのがすぐにわかった。いじらしいくらいだ。手当たり次第、枝でも布でもくちにくわえてはぽぽこに渡そうとする。何より、いままで私には吠えてうなっていたのに、おとなしくなった。そればかりか、私の顔色を伺っているではないか。ぽぽこの出現でバックヤードに出る度に激しく吠えられていたのから解放されることになったのは、予想外だけれどとてもうれしい。このNeighborhoodは、裏の家とバックヤード同士が、いわば背中合わせのようになっているのだが、ぽぽこの存在を容認できないのが唯一ジャスパーの裏のメス犬である。ジャスパーと同じテリアで、フェンス越しにデートしていたのに、ぽぽこが来て以来、ジャスパーは彼女に冷たくなった。うるさがるようにさえなった。ジャスパーの様子をみていると、安っぽいドラマを観てるよりずっと面白いと思う。今もジャスパーは私に気を使っている。「良い子にしてないとぽぽこのボーイフレンドにはさせてやんない!」姑根性丸出しでフェンスの間からジャスパーを撫でる毎日である。