1995年ハロウィーン
ハロウィーンの夜に、家の明かりを全部消して、真っ暗な中で一人うずくまっている羽目になるとは思わなかった。
Trick or Treat そのものは日本でも有名なので知っていたし、小学校からのTrick-or-Treat 安全10カ条やスーパーでのハロウィーン・セールを見れば、何をどうしたらいいかくらいは容易に想像ができる。子供達はコスチュームを着て、もらったキャンディを入れる入れ物と明かりを持って、近所をまわる。親が一人ついて行けば完璧だ。Front Yard に首吊りの子供をぶら下げて御墓を演出しているような家にはもちろん行かない。家にはキャンディを入れた小さな紙袋を用意して、やって来た子供に渡せばいいのだ。久々にパーフェクトである。降っていた雨も止み暗くなって来た。うちのガキは隣のレベッカと一緒にまわる約束をしたらしく、早く行こうとせがむ。
そこへ現れた最初のTrick-or-Treater は、口と目から血を流している二人の死体だった。うまいもんだ。ガキは恐いと言いつつも大喜びだ。結局、近所に強い母がガキについて行き、父は家で暖炉の番をしながらキャンディを渡す分担となった。いよいよ行動開始だ。
こっちは最初の死体で慣れているから何が来ても恐くはない。ドラキュラ、Power Ranger、忍者、どくろ仮面等続々とやって来る。見ているだけでも楽しいもんだ。その都度、キャンディ袋を渡した。40は用意したはずの袋がどんどん減って行く。これは暖炉の番どころの話ではない。袋詰めをしなければ!袋はどこだ! やっと余っていた袋とキャンディを探し出し、袋詰めをする。こうなると時計とにらめっこだ。8時まで頑張ればいいのではないか? ポアソン分布だと仮定すれば、あと40もあれば充分のはずだ。
K: "Trick or Treat!"
S: "How many?"
K: "Seven!"
一挙に7人もやって来て、ポアソン分布の仮説は一瞬にして没。
K: "I have two bags."
こういうズーズーしいガキの親の顔をみたい。
最初にキャンディーが底を着いた。それでも外で小さな子供がTrick or Treat と言って待っている。こうなりゃやけだ、みんな持っていけ、どろぼう!
台所を探しまわり、おやつ用に焼いてあったカップケーキや貴重な日本のお菓子「旅がらす」、オリエンタル・フードで買った「カキの種」のようなもの、片っ端から渡す。しかし、台所は半分は未知の世界、地理的に不案内な為、ついに売り切れとなった。これで子供が来たらなんて言い訳すればいいのだ。おまけに英語だ。
とっさに思い出したのは、小学校からの安全10カ条のうちの一つ、明かりがついている家にだけ行こう、だった。こうして、家じゅうの明りを消して真っ暗にして、何故か音も立てないように、じっとしてガキと妻の帰りを一人で待っていた。