採血の恐怖
うちで最後まで医者に行かなかった斎藤家の大黒柱はついに医者に行くことになった。別に病気になったわけではない。血液の定期検診のつもりだ。これは、厳密に言えば、保険会社は払戻ししてくれない。しかし、患者だと思っているらしく、すぐに血を取ってくれない。予約の時、ブラッド・チェックをしてくれと行ったのに、通じていないようだ。予診で血圧を計っているとき、医者が大声で鼻歌を歌ったので、脈が聞き取れずやり直しになった。ひでえ所に来たもんだ。結局、後日、朝食を食べないでまた来て、血液検査をすることになった。
後日、また来て、医者に言った。
"I'm hungry, ready for blood check."
すぐに看護婦が飛んできた。やけにテンションが高くなっている。
"This is my first experience... I'm learning at College."
えっ? 教材にされる? 他にも2人がついて来た。これは大がかりになってきた。
経験の在るらしい人が箱をごそごそさせて、注射器を選んでいる。
"This is better date."
ますます、怪しくなってきた。日付は大丈夫か?
見習看護婦はゴムで血管を止めようとするが、何回やってもゴムがすぐに外れてしまう。経験者らしい人がゆっくりゴムの止め方を教え始める。こっちも緊張してくる。
いよいよ針が血管に突き刺さる。とても見てられない。顔をそむけて耐えていると、ドアのあたりにさらにもう一人来て、場違いな質問をした。
"What's your job, here?"
ばかやろう、痛くて声がでるか! が、悲鳴だけは出さなかった。
見習看護婦は、採血に成功したので、針を振り回して喜んでいる。
"Don't shake!" と経験者らしい人に怒られた。
"How was it?" と聞かれたので言ってやった。"No pain."
これでしばらくは犠牲者が続出するだろう。悔しいから保険会社に払戻請求したらお金が戻ってきた。