太陽の使者 鉄人28号 こばなし・その6 〜 聖誕祭 〜
「すまんなあ」
のんびりした調子に、おどろいて顔をあげる。
「はい?」
ちゃんと大聖堂を見守りながら、でも大塚警部はふざけた調子でふかい溜息をつく。
「けっきょく、クリスマスまでに帰してやれなかっただろう」
こんなときにクリスマスだなんて聞いて、つい笑ってしまう。
「警部があやまることないですよ。それにケーキもプレゼントもみんな、ぼくがもどってからにするって敷島博士が云ってましたから」
「そうか。ん? じゃあマッキーは……」
「一緒に待ってるそうです。電話じゃ話さなかったから、本人は怒ってるかもしれませんけどね」
肩をすくめてみせると、警部の口元もゆるむ。
「まあ、わしも行って頭をさげるさ。ついでに、ひとつケーキをご相伴させてもらうかな」
「どうぞ。おばさんもきっと喜びますよ」
静まりかえった街のところどころであわく光っているのは、たぶんクリスマスツリー。
あした日本に帰れたとしても、もうクリスマスは終わっていて、でもうちにだけはツリーが残ってる。
想像して、そっと息をつく。
白い息がのぼっていく先には厚い雲しかみえないけど、東京は、月がとてもきれいだよ、って。
明日もきっと晴れるから、はやくもどっておいで。
やさしい声を思い出す。
「……あれ?」
星がみえた気がして、目をこする。
「警部、警部」
ぼくが指さした空を見あげて、大塚警部がげんなりした顔で両腕を抱く。
「だれも雪は待っとらんぞ。うう……」
警部はいつもの制服姿だから見るからに寒そうだ。ぼくにはちゃんとコートを用意してくれたのに。
「風邪、ひかないでくださいよ」
「おうさ。手作りケーキにありつく前に倒れるものか。……お」
にぶい音が響いた。
大聖堂をにらんでいた警部が、うなずいて、きゅうくつそうな姿勢のまま後ろの隊に合図を送る。
「正太郎くん。たのんだぞ」
「はい」
Vコンの計器を再確認しながら、手袋をきつくはめなおし、レバーを握る。
「よし。鉄人、こい」
いっせいにサイレンが響きだした。
次々と入ってきたパトカーが広場をとり囲む。
サーチライトに照らされて、大聖堂の前に巨大な影が浮かびあがった。
こんなに大きいくせに、めちゃくちゃ早いんだから不思議だ。
でも今夜はぜったい、つかまえてやる。
見あげると、一面に舞う雪のなかを、ブースターの光が弧を描いて近づいてくる。
このまま速度を落とさず、いく。
「行け、鉄人!」(おわり)
■ウィーンのシュテファン大聖堂で、大塚警部とホワイトクリスマス♪
2010.01.15 WebUP