太陽の使者 鉄人28号 こばなし・その5   〜 わるもの会議 〜

「さて諸君。ここに今日こうして集まっていただいた目的は、みな承知していると思う」
「『明るい未来のために!』。まったく、このつかみには泣きましたよ」
 招待状を握りしめた手をふりあげ、カニ頭の男が思いだしたように目をうるませている。
 大きな円卓をとり囲んでいる面々はほとんどが覆面を被っており、みるからにあやしい。堂々と素顔を見せているのは、知るものは誰もが知っている大物ばかりだ。その素顔をさらしているひとり、スキンヘッドの大柄な男が満足そうな笑みをうかべて続ける。
「さよう。われわれ裏社会で生きる者にとっての明るい未来。それは、目の前に立ちはだかる障害を駆逐し、未来永劫の自由を勝ち取ることである!」
 割れんばかりの拍手がおさまるのを待って、スキンヘッドがせきばらいをする。
「そこでだ。われわれに今もっとも必要なことは、なにか。考えに考えた結果、わたしが見いだした結論は、団結だ」
 こぶしを卓にたたきつけ、スキンヘッドが叫ぶ。
「敵はたった一機。操縦者もひとり。それもわずか、11のガキだ。そこを、みな忘れてはいまいか。堂々と1対1の勝負を挑むのは、勝てば気持ちはいいだろう。だが負ければただの馬鹿でしかあるまい」
「大量にロボットをくりだしても、俺は負けたが……」
「ふん。小手先で大量生産品をならべてみても無駄だ。みなの自慢の一機を、同時にくりだせば、どうなる」
 おお、と場内がどよめく。
「そうなれば、さすがに多勢に無勢だろう」
「ぜったい勝てそうな気がするぞ」
「……だが、一匹狼を掲げてきた俺が、いまさらタッグを組むのはごめんこうむるな」
 ひとりの発言が、場の活気に水を差した。
 またひとり、金髪の美女が手をあげる。
「よってたかってというのは、われわれの名誉を傷つけはすまいか?」
「もはや名誉だなどと云っている場合ではあるまい」
「いや。やはり鉄人を倒せば、それは名誉だろう」
「そうだ。そうなれば、末代まで語りつがれるぞ」
 みながうっとりと宙をあおぐのを見て、スキンヘッドがはげしく卓をたたく。
「ならば、同時多発で事件を起こす! ほとんどの者は仕事をやりとげ、運悪く鉄人にあたった者だけが、名誉のために1対1で勝負すればよいのだ」
「いいですなあ!」
「もしくは、連続でことを起こすのだ! 雨後の筍のごとく、24時間、休みなく連日事件が起きれば、そのうち必ずや誰かが鉄人28号を打ち負かすだろう」
「素晴らしい!」
 スキンヘッドは場内を見渡した。
「ほかに妙案があれば、忌憚なくうかがいたいが」
 おずおずと、カニ頭が手をあげた。
「鉄人28号が出入りする騒音を、社会問題にしてしまうというのはどうだろうか」
「おお、そうか。“敷島山”のふもとの住民をあおって、鉄人がうるさいと夜間の飛行差し止めを求めて裁判を起こすのだ」
「夜には出てこれなくなるぞ!」
 スキンヘッドが、溜息をつく。
「夜間に出入りできなければ、鉄人は、ICPO管轄のどこかに保管しておくのではないか?」
「……そ、そうか」
 しずまりかえった場内を見まわして、スキンヘッドがまたゆっくりと息をついた。
「もっとも確実で、てっとりばやい方法を、提案しよう」
 耳をくすぐる言葉ではあったが、男の重々しい口調に、誰もが無言で待つ。
「このなかで、鉄人の操縦器を奪った者は?」
 8つの手があがる。スキンヘッド自身、両手をあげていた。
「そう。操縦器を奪うことは簡単だ。だが最後には取りもどされてしまうのだ。わざわざ返してやった馬鹿者もいたがな。……つまり、操縦器を取りもどせないようにする。すなわち、金田正太郎を殺すのだ!」
 全員が息をのむ。それは、みな一度は考えたことがあり、また誰もが手をださずにいた手段だった。
 緊迫した無言劇が、しばし水面下で激しくくりひろげられた。
「……なにも、殺すことはないんじゃないか?」
 ひとりの勇気ある者がぽつりと云い、場の空気がとける。
「……そ、そうだな。相手は、まだ子どもだ」
「わたしは、鉄人28号に勝つことが一生の夢。小学生を殺して、それで勝ったとしても、なあ……」
 すくなくともそこに名誉はない。おそらく仲間からも後ろ指をさされ、末代まで恥を引きずることになるだろう。そんな手段を堂々と口にした男には敬服するが、自分がその役に手をあげたいとは誰も思わなかった。苦々しげな表情を見れば、おそらくスキンヘッド自身も、そうだったのだろう。
「そ、そうだ。足の一本でも折ってやればいいのだ」
「指一本くじいただけでも、操縦しづらいのではないか?」
「風邪をひかせる、というのはどうだろう」
「だから、金田正太郎を狙うこと自体が卑怯だというのだ」
「それなら、同時多発も連日作戦も、卑怯なんじゃないか?」
 場内は一気に騒然となった。みな口々にわめきだして、収集がつかなくなる。

 延々たる激論の末にまとまった結論は、堂々と1対1で “鉄人28号に” 勝負を挑む、という大原則であった。
 本日をもって、ここに 『世界金田正太郎保護協会』 が設立された。
 事件は基本的に週一度を限度とする。それぞれ予定が重なることのないよう、必ず事務局でスケジュール調整をうけたうえで戦いを挑むこと。
 満場一致であった。

 今日も、世界は平和である。

 

     (おわり)    ※これはフィクションです(笑)。

 

      2009.01.17 WebUP/p>

 

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