太陽の使者 鉄人28号 こばなし番外編・その1   〜 迷子 〜

「おにーちゃん!」
 すがりついてきた幼いふたりは、まだ元気が残っている様子だった。
 溶けるようにほっとして、小さな身体を抱きあげる。ふたりとも、すっかり冷えきっていた。
「さあ。うちへ帰ろうな」
 深い雪原を歩きだしてすぐ、右側にかかえた正太郎の腕が強まる。ゆさぶられて眠くなったのかと思いきや、ちいさく鼻をすする音がきこえる。
「ぼうず、どうした。もう大丈夫だぞ」
「……だって」
 ますますしゃくりあげる身体を、ぎゅっと抱きしめてやる。まだ5つ6つの子どもが雪山で迷ったのだ。よほど怖かったのだろう。姿がみえないと気づいてからでも3時間は経つ。とうに日も暮れ、ブナの大木の根本は雪こそ薄かったが、この寒さだ。泣ける気力が残ってるだけでたいしたものだ。
「おまえたち。あそこで、どれくらい待ってたんだ?」
「ずっとよ」
「ずっと?」
 こちらはもっとたいしたもので、すっかり安心しきっていつもの調子の牧子を見る。
「どんどんゆきがふってきて、はやくかえりたかったけど、しょうたろうくんが、うごかないほうがいいっていうから。あたしたち、ずっとあそこにいたの」
「うん? どうしてだ、正太郎」
「……だって」
 真っ赤な頬をぬぐい、正太郎がちいさな声で答える。
「くらいし。……ゆきで、みち、わからなくなっちゃったから」
 健二は内心舌をまく。
 山で迷えば、もっと大きな子どもでも混乱してとにかく歩き回るものだ。そうして疲れきって倒れたら、雪山なら1時間ともたなかっただろう。
「正太郎。おまえはかしこいなあ」
「なんでなんで?」
 牧子が身体をゆする。
「なんでって、こういう場合は動かないのが一番いいのさ」
「どうして?」
「こうして俺が助けに来ただろう。お姫さまは、王子さまをじっと待ってるもんじゃないのか?」
「まあ」
 牧子がきゃっきゃと笑う。正太郎を見ると、涙は止まったようだ。
「正太郎。空を見てみろ」
 きょとんとした顔をして、正太郎が上を向く。雪雲はすっかり去って、冬の星空がひろがっている。
「星には決まった形がある。星座ってやつだ。こんど博士におそわっとけ。迷っても、星さえ見えれば、ちゃんと自分で家に帰れるようになるぞ」
「そう、なの?」
 大きな瞳が、とたん熱心に星を追いだす。
 いいな。
 健二が、にやりと笑う。幼くとも、さすがはあの敷島大次郎の愛弟子だ。
(好奇心の塊、って目をしてやがる。)
 ふたりを軽々と抱えなおし、健二はふかく息を吸いこんだ。
「さあ、急ぐぞ。だがおまえら覚悟しとけ。帰ったら、大先生のカミナリが待ってるからな」
「ええー」
 幼い身体はすっかり体温をとりもどし、でかいカイロを抱いているようなものだ。
 余裕で足をはやめながら、村雨健二は雪のなかを走るように、敷島邸へとまっすぐ歩いていった。

 

     (おわり)

 

      2009.01.17 WebUP/p>

 

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