太陽の使者 鉄人28号 こばなし・その2   〜 父ふたり 〜

 後部座席のドアを閉め、車から離れようとした敷島大次郎が、ああと云って運転席をのぞきこむ。
「大塚警部。来週の水曜日、一緒に夕食をいかがですか」
「水曜? 待ってくださいよ。……31日、でしたかな」
「ええ」
 手帳をめくりかけ、大塚茂が顔をあげる。
「博士。ひょっとして……」
「ええ。正太郎くんの、お誕生日なので」
「そりゃ、ぜひうかがわせてください。いやはや、はやいもんですなあ。12でしょう?」
「はい」
「春には中学だなんて、わしゃ、まだ信じられませんよ。……まあ本人にしてみれば、やっとというところなんでしょうがねえ。……こりゃいかん。博士博士、なにか正太郎くんが欲しがっとるもの、おしえてくれませんか」
 窓から身をのりだしてきた大塚に、大次郎がにっこり笑う。
「それは、わたしが用意してしまいました」
「あーっ、もうズルいですぞ。しかし博士なら、まだ他にも検討つくでしょう?」
「親の特権です」
「まったく、博士は正太郎くんのこととなると……」
 子どもみたいですなあ、という言葉を半分のみこんで大塚が頭をかく。大次郎はおかしそうに笑いだした。
「冗談ですよ。いそがしい警部が来てくださるだけで、あの子はよろこびます。どうぞ、お気づかいなく」
「いやいやいや、そうはいきませんよ。さーて困った」
 腕組みでうなりはじめた大塚に、大次郎が息をつく。
「すみません。……それでしたら、」
「ストップ!」
 大塚が右手をつきだす。
「なにも云わんでください。こうなったらぜったい、博士がぎゃふんと云うすごい贈り物を持ってきてみせますから」
 しばし沈黙して、ふたり同時に笑いだす。
「わしだって、正太郎くんとのつきあいは長いんだ。見ててくださいよ」
「うけて立ちましょう。楽しみにしていますよ」
 ふと腕時計を見て、大塚がいかんいかんとハンドルを握る。
「では水曜に。……それまで、もう会わんですむよう祈っとってください」
「はい」
 大次郎が右手をあげて離れる。ゆっくりバックして方向転換すると、パトカーは来た道をまたもどっていく。
 夕陽を反射する車体を見送ってから、思わずといった笑みをこぼして、敷島大次郎は我が家へときびすをかえした。

 

     (おわり)

 

      2009.01.17 WebUP

 

〜 「戻る」ボタンでお戻りください 〜