太陽の使者 鉄人28号 こばなし・その18   〜 あめ 〜

 ガラス窓をつたっていく雨を、ながめているような、いないような、ぼーっとした横顔。
 その傍らで、パパが新聞を読んでいる。
 雨が止むまでは母屋にいなさいと云ったきり、なにを話すでもなく、書斎に行くわけでもない。
 かくいうわたしも、読みあきた雑誌をまた最初からめくっている。
 しずかなリビングに、雨の音だけがやけに響く。
 朝食でも、ほとんど喋らなかった。
 疲れてるだけじゃない。昨日の夜、なにかあったのは間違いない。
 たぶんパパはぜんぶ知ってて、だから正太郎くんのそばにいるんだろう。
 嗚呼もやもやする。
 けど訊いたりなんかしない。
 心配してるなんて気づかれちゃって無理やり明るくふるまわれたら腹が立つもの。
 部外者には話せないって、いつものように云われたら、もっとシャクにさわるし。
 だいたい部外者って感覚が失礼しちゃうわ。
 正太郎くんがしてることは子どもの遊びじゃない。それくらいは、わきまえてる。
 でも、くやしいのよ。
 だいたい肝心なときそばにいることもできないで、あとでこんなふうに様子を伺ってるだけなんて、わたしの性に合わないのよね。
 代わってあげられるものなら代わってあげたいけど、テニスラケットなら自由自在にあやつれるわたしの黄金の腕が、Vコンを握ると鉄人に阿波踊りしかさせられない現実の前に、それはどうしたって無理。
 じゃあ、なにができるだろう、って。
 こんなことがあるたび、何度も何度も考えた。
 わたしがここにいる意味。
 わたしの将来。
 静かな溜息がひびく。
「はかせ」
 窓の外を見ながら、正太郎くんがぽつりと云った。
「なんだい?」
 パパも新聞から視線を移さず、なにげなくこたえる。
 空気をゆらさないように、わたしはそっと立ちあがった。
 いい匂い。
 そろそろ、ママのスペシャルケーキが焼けるころ。
 すこしだけ、外が明るくなってきた。もうじき雨もあがる。
 いま、紅茶を入れるくらいなら、わたしにだって出来る。
 頑張れってエールを込めて、とびきりおいしい紅茶を入れよう。
 ひとりでそんなに頑張らなくたっていいのに。
 そう思うけど、でも頑張っちゃうのが正太郎くんだから。
 だから、頑張れ、って。
 頑張って。

 

     (おわり)

 


■のんびりした正月なので正太郎くんにものんびりしてほしかったのですが、ちょっとのんびりとは違っちゃいましたね。

 気丈な正太郎くんですが、たまに落ち込んだときくらいは、家族の前では隙を見せて、あたたかく見守られてほしいなあと。そんなひとコマをマッキー視点で。

 正太郎くんのことですから、すぐ元気になって、また頑張っちゃうんでしょうけど、ね。

      2015.01.03 WebUP    2015.8.8 こばなし集へ移動

 

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