太陽の使者 鉄人28号 こばなし・その16   〜 ごほうび 〜

 はじめ、花かと思った。
 ひらひらとゆれる白は、スカートだった。
「こんにちは」
 ここの言葉は知らない。
 だから日本語で言ってみた。
 ちいさな女の子はぱっと頬を染めて、植木の陰からでてきた。
 ぼくの目の前まで来て、両手を高く差しだす。
 ちいさな手のひらに、ちいさな貝殻がひとつ乗っている。
「えっと、……これ、もらっていいのかな」
 自分を指さすと、にっこり笑ってもっと手を高くする。
 言葉はわからなくても伝わってるんだろう。
 太陽を浴びて光っている真っ白な貝。拾いあげると、女の子は満足そうな顔で腕を降ろした。
「テリマ、カシ」
 ありがとう、って言ってくれてる、のかな?
 そんな気がしたので、繰り返してみる。
「てりま、かし」
 明るい笑顔をみせて、女の子はくるりと背を向け、あちらへ駆けて行った。
「それは、この島を守ってくれた君へのご褒美だな」
 大塚警部がすぐ後ろに立っていた。
「ありがとう、正太郎くん。わしからも、何か礼をせんといかんなあ」
「どうしたんですか警部。今日は」
「なに。家族旅行の初日にこんな遠方まで連行してしまって、わしだって悪いと思っとるんじゃよ。遠慮するな。欲しいものがあったらなんでも買ってやるぞ」
 わははと笑う警部に、ふと思いついた。
「それなら警部、ぼく、いま欲しいものがあります」
「なんだなんだ?」
 冗談だったのかな。ぼくの申し出に、ちょっと面食らったような顔をされる。
「ぼくに、お休みをください」
「ん? いや、もうこれで済んだんじゃ。しかるべき一番迅速な手段で君は博士たちのところまで送ってやるから心配するな。それに、旅行のあいだくらいはもう……。もー呼び出したりは、せんと思うぞ。……たぶんな」
 すまなさそうにしどろもどろになっている警部がおかしい。
 別に、事件が起きるのは警部のせいじゃないのに。
「ちがいますよ。お休みっていうのは大塚警部のお休みです。有給休暇がいっぱいたまってるんでしょう?」
「んん?」
「事後処理とかはぜんぶほかの人にまかせて、警部はいまから休暇をとって、ぼくと一緒に旅行に行きましょう」
「……わしが褒美をもらってどうするんじゃ」
「ぼく、たまには警部とゆっくり話したいなあって思ってたんです。どうです? ご褒美もらえますか?」
 大塚警部はちょっとのま固まったようになっていて、それから帽子に手をやって、帽子ごと髪をくしゃくしゃにしてから帽子をつかみあげた。
「まいるな。君には、まったく……」
 あきれたような溜息をついてから、大塚警部は、にやりと笑った。
「よしわかった。ちょっと待ってろ」
 まだあわただしく動きまわっている人たちの方へかけていく背中を見送って、いまさらどきどきしてくる。
 わあ。
 すごい、わがままを言ってしまった。
 無理だろうなあ……と思って、言ったんだけど。
 手のなかの、ちいさな貝をそっと握りなおす。
 子どもっぽく甘えてしまった。
 恥ずかしさより、でも嬉しいほうがだんぜん勝った。
 やったーって。
 バンザイしたいような心地で、ぼくは、笑って手招きしている大塚警部のほうへかけだした。

 

     (おわり)

 


■正太郎くん11歳(小6)のゴールデンウィーク。

 ゴッド○ーズの生真面目な大塚長官を毎週見てると、太陽の使者の愛らしい大塚警部を補充したくなりませんか?(笑)

      2014.1.12 WebUP    2015.01.03 こばなし集へ移動

 

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