太陽の使者 鉄人28号 こばなし番外編・その2 〜 電話 〜
「はい。金田です」
画面が映らない。
受話器をとって、耳にあててみる。
「もしもし?」
『よう。元気そうだな』
とたんに気がぬけた。
映像なしの電話なんてめずらしいから構えてしまったけど、このひとはいつもそうだ。
「こんばんは」
『ん? ああ、そっちはもう夜中か。起こしちまった……、わけじゃなさそうだが』
「はい。大丈夫です」
『ずいぶん宵っ張りだなあ』
「ちょっと、いま戻ったところだったので」
まだ着替えてもいない。
あっちからは見えてるんだろうけど、片手でネクタイをゆるめながら、思わずそっと息をつく。
『事件か』
「まあ……。それで、どうかしましたか」
世間話をするために、わざわざ電話をよこすひとじゃない。
今夜もさんざん引っ張り回されてくたくただったけど、気はひきしめて次の言葉を待つ。
一拍おいてから、とどいたのは盛大な溜息。
『とにかく聴け。どうも俺は、呪われてるらしい』
「………………はい?」
『隣の住人が、アパートのくせに犬を飼い始めやがって、それが見たこともない大型犬でなあ。昼でも夜中でも吠えまくって、すっかり寝不足だ。おちおち酒も飲めやしねえ。しかもだ!』
酔っぱらってる、のかな?
黙ってきいていると、蕩々と流れていたしょうもない話がふいに途切れた。
しんとした受話器を一度見て、また耳にあてる。
「村雨さん?」
『きいてるか』
「はい」
声のトーンが変わった。
姿勢を正して、まっ暗な画面をみつめる。
盗聴とか、そういう類を調べてたんだろう。そんなタイミングだった。
『特捜部の紫藤をあらえ』
「……しどう、さん」
『かならず直接、警部に伝えてくれ。警視庁の電話はぜったい使うなよ』
「わかりました」
『できれば、はやく耳に入れたいんだが……』
「きっとまだ本部でしょう。これから行ってきます」
『恩に着るぜ。埋め合わせは、この次な』
「いいですよ。大塚警部を守るためなんでしょう?」
ふっと笑ったような息がきこえて、電話は切れた。
受話器を置いて、ベッドに放った上着を拾う。
警部の立場が悪くなっているのは偶然じゃなく、故意だったとしたら。
このところの妙な事件が、ぜんぶつながっていく。
小屋をでると、すこし欠けた月が明るく光っていた。
ことが収まるまでは、ぼくが警部を守れと。
直接伝えろと云った言外には、そういう意味も含まれていたと思う。
遠いパリにいる自分の代わりに。
夜道を駆けながら、月に祈る。
満月になるころには、どうか、ゆったりお酒をかたむけて、あのひとが空を見あげられますように。
願いは、きっとかなえてみせる。(おわり)
■また番外編から出張ってきました。
ICPOパリ支部の村雨健二さんみたびです(←GロボOVAの村雨さんだから、健次じゃなく健二さん)。
正太郎くんのような楽しい存在を、あのひとが放っておくわけがありません。
とうぜんその後もいろいろちょっかいだしてきて、強力な助っ人になってくれればいいですね〜(はーと)この世界に携帯電話は存在しません。
この感覚って、若いひとには想像つかないかも?
「太陽の使者とは!」の解説にも特記すべきでしょうか(笑)敷島家のテレビ電話は大型画面つきです。
ボタンを押すと映像がでてそのまま会話できるのですが、母屋の居間の電話では、
正太郎くんが受話器を持って話してたことがありました。
なので、正太郎くんの小屋の電話にも受話器が併設されてるってことでお願いします。
壁の埋め込み式なんですけど……。
だって村雨さんの声は、耳元で聞きたいですもんね〜♪2012.6.1 WebUP 2013.4.30 こばなし集へ移動