太陽の使者 鉄人28号 こばなし・その 36   〜 目印 〜

「マッキー?」
 ぼうっと歩いていたのか気づくと、またマッキーがいない。
 しばらく待っても来る気配がないし、長靴の足が冷えてきた。息をついて戻ることにする。
 浅い雪をさくさく踏みしめ少し戻ったところで、しゃがみ込んだ背中をみつける。
 また雪だるまでも作ってるのかな。
「マッキー……」
「正太郎くん、見て見て!」
 そばまで行くと、白い雪のあちこちで赤い実が光っている。大きな丸い葉っぱもみえる。
「フユイチゴね。こんなにたくさん! これ、食べれるのよ」
「へえ」
 小さい赤い粒々の固まり。マッキーが目の前に差し出してきた手のひらから、ひとつつまんで口に放り込んでみる。
「……すっぱいよ」
 マッキーは笑いながら、残りを自分の口に放り込んだ。
「正太郎くんは、もっと甘くないと駄目? じゃあジャムにしようかしら」
「いいね」
「あ〜何か入れ物ないかしら」
「え……」
 ポケットをさぐっても出てきたのはハンカチしかない。
「もう、ジャムってたくさんいるのよ。貸して」
 雪をバサバサ落としながら、ぼくのハンカチは枯れ枝に結ばれてしまった。
「お昼ご飯が済んだら、カゴを持って来ましょ」
 淡い水色のハンカチが、雪の中でちゃんと目印になるだろうか。
「ぼくのハンカチ、これが見納めにならないかなあ」
「なに云ってるのよ。正太郎くんもここ覚えとけばいいじゃない」
「えー。ぼくも、また来るの?」
「ジャムを食べたい人は、協力するわよね」
「……了解」
 歩き出したマッキーは、両手を打って笑顔を向けてくる。
「そうだ。ゼロハチにも手伝ってもらえばいいじゃない?」
「ゼロハチは忙しいんだぞ」
「あ。もっといいこと思いついたわ。パパに頼んで、ゼロハチが見回るとき、フユイチゴを発見して摘んでくるようプログラムできないかしら?」
「横着だなあ」
 あきれて笑ってしまう。
 まったく次から次へと、マッキーは突拍子もないことをよく思いつく。
 ぼくが笑ったとたん、マッキーがすごく嬉しそうな顔になる。
 それで気がついた。
 もしかして、気を使わせちゃってたんだろうか、と。
 思い返しても今朝から何をしてたか記憶がない。
 苦笑しながら、昨日の重苦しい記憶が、少し軽くなっていることにも気づく。
「マッキー」
「ん?」
 ありがとう、なんて云ったら怒られそうだから、やっぱりやめておく。
「イチゴ食べたら、なんだかおなかすいてきたよ」
「そりゃそうでしょうよ。もうとっくに1時まわってるのよ。こうして寒いなか迎えに来てあげたかいがあってよかったわ」
 そういえば、昼はいらないと云ったからマッキーが現れて、しぶしぶ歩きだしたんだっけ。
 駄目だなあ。きっとみんなに心配をかけてしまった。
「まあよかったわね。大好物のハンバーグを食べ損ねなくて」
「えっハンバーグ? それを先に云ってくれよ」
 マッキーの軽口につきあいながら、雪を踏みしめ歩く。
 振り向くと、きらきら光っている森のなかの水色は、案外まだはっきりと見分けることができた。
 風は冷たいけれど、ふと、身体があたたかくなる。
 そう、目印みたいだ。
 マッキーがいて、はかせがいて、おばさんがいる。
 この場所は、ぼくの大切な目印。
 太陽を反射して、まぶしいこの森の景色も。
 ちょっとすっぱかったイチゴの味も。
 かならずここへ戻ってくる、って。
 そう思えば、きっと明日も、ぼくは頑張れるから。

 

     (おわり)

 


 ■あとがき■
 いいお天気の森のお散歩♪ テンション低いときのお供には、マッキーが最適かもしれませんね〜

     2022.2.14 WebUP   /  2024.2.14 こばなし集へ移動

 

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