太陽の使者 鉄人28号 こばなし・その 29   〜 ひとりじめ 〜

 山の稜線が紺から赤紫に変わっていく。
 あちこちのくぼみにたまっている霧も、朱色に染まりだす。
 遠くにひろがる街で、ゆらゆらまたたいている灯り。
 あそこで起きてる人が、どれくらいいるだろうか。
 思わず、あくびが出てしまった。
 頭をふって、レバーを握る両手に力を込める。
 オレンジ色に輝きだした地平線は、いよいよ明るくなってきた。
 上には雲ひとつない。
 こんな景色を独り占めだなんて、もったいないな。
 白い溜め息が、後ろに細く流れていく。
 やっぱり、無理を云って警部についてきてもらえばよかった。
 そしたら一緒に観れたのに。
 さすがに少し寒くて、片手で厚い襟元を立てる。
 いいからいいからと、このコートをむりやり貸してくれた警部の笑顔を思い出す。
 現場でまだ指揮をとらなきゃいけないのに。
 大きなくしゃみをしてる姿まで浮かんで、つい笑ってしまう。
 警部が、風邪をひきませんように。
「あ」
 独り占めじゃなかった。
 ぼくを載せた両手をさしだしている鋼鉄の顔をふりむく。
「ふたりじめ、だよな」
 紅く染まった鉄人は、なんだか嬉しそうだ。
 太陽が、細い線になって現れる。
 それだけで頬があったかくなってくる。
 そういえば、今年はじめて見る日の出だ。
 もう3日だけど、初日の出って云うのかな。
 とにかくきれいで、夜中にがんばったご褒美に思える。
 冬休みだから、帰ったらゆっくり寝れるのも、ご褒美かな。
「おまえも、ゆっくり休もうな」
 鉄人にもう一度声をかけて、視線を戻す。
 冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んで。
「さあ、もうひと息だ」
 明るい東の空へ。
 家に向かって、ぼくたちは速度をあげた。

 

     (おわり)

 


 ■あとがき■

 

  正月から、また朝帰りの正太郎くんです。

  鉄人で移動するって、寒くないんでしょうか?
  太陽エネルギーを貯めて、あれだけのジェット噴射で飛ぶ鉄人の装甲は案外あったかいかも。
  鋼鉄ですから、自転車のサドルどころじゃなく、真夏なんか、あちちちってなりそうですよね(笑)。

  敷島博士の愛情設計で、手のひらには床暖・床冷機能がついている…。
  それですねっ♪

     2019.1.28 WebUP   /  2020.1.28 こばなし集へ移動

 

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