太陽の使者 鉄人28号 こばなし・その 26 〜 ぬける 〜
「よし。鉄人!」
正太郎くんが叫ぶ。
今度こそ、がっつり四つに組んで敵の動きが止まった。パワーは断然、鉄人のほうが上だ。
「いいぞ! そのままねじ伏せろ!」
思わずガッツポーズを決めた、わしの大声に、いらえが返らない。
おやとふり向くと、地面に片ひざをついてVコンに向かっている正太郎くんは黙ったまま真剣な表情で二体を見あげ、操作をつづけている。
何か問題でもあったか?
鉄人と、正太郎くん。
交互に見比べても、特に異常は見あたらんが。
「おい、正太郎くん……」
声をかけようとしたそのとき、鉄人が見事な足払いを決めた。
うつ伏せにねじふせた敵の背中に鉄人がぐいと膝を食い込ませる。それだけで、ボン、と煙があがり、敵の動きが止まった。
後ろ手で両腕をつかみ、緑の巨体をゴロリと横向きにする。鉄人にされるがままになっている機体は、もう完全に停止しているようだった。
「なんだ、最後はずいぶんあっけないな。よーし。それっ、犯人確保だ!」
わしの号令で、待ちかねていた警官隊が突入をはじめ、おそらく犯人が乗り込んでいるだろう頭部に向かっていく。
「やれやれ」
息をついて、あらためて正太郎くんをふり向く。
「正太郎くん、よくやってくれたな」
肩をたたいても、正太郎くんは口を結んだまま、じっと鉄人を注視している。
「正太郎くん? もう大丈夫だぞ?」
目の前からのぞきこむ。
やっとわしを見た正太郎くんは、ただこっくり肯いた。
Vコンのレバーからゆっくり両手を離し、立ちあがる。
正太郎くんは、ふいに右手で口をおさえると、うつむいてしまった。
「どうした、気分でも悪いのか?」
驚いてつめよる。背中に手をあてると、わずかなふるえが伝わってきた。
いったいぜんたい……。
ついさっきまで、元気そのものだったが。いや調子が悪いのを隠して無理しとったのに、わしが気づかなかっただけか?
うろたえて頭のなかが真っ白になる。
顔をあげた正太郎くんは、いきなり笑いだした。
「すみ……、すみません、警部……」
とにかくやっと口をきいてくれたことに、ほっとして力がぬけてしまう。
「なんだなんだ? 何が起きたんだ?」
ようやく笑いをおさめると、正太郎くんは、むすんでいた右手を、わしの目の前にさしだした。
手のひらを、そっとひらく。
おかしそうな、照れくさそうな、嬉しそうな笑顔がこぼれた。
「歯が、ぬけました」
(おわり)
■あとがき■
ほんと〜に、なんということもない話で、すみません(笑)。
しかもこんな日にアップ!?(笑)
↓2018.2.14 WebUP / 2018.9.17 こばなし集へ移動