太陽の使者 鉄人28号 こばなし・その 25   〜 白帯 〜

 やはり、金田がいると引き締まる。
 そして金田が組むと、みんなどうしても手を止め注目してしまうのだった。
 中2なら初段も狙えるが、そもそも昇級試験を受けたことがないという。だから白帯。だが腕は余裕で黒帯レベルだ。こいつの動きは見てるだけで勉強になる。
 それにしても、相手が1年だろうがまったく手を抜かないから、ほとんど初心者の守谷がどうしていいかわからず立ちつくしている。
「かかっておいで」
 やさしくうながされ、守谷が飛び込んだ。とりあえずソデをつかみ、あろうことか背負い投げの体勢に入る。おいおい、まだろくに教えてないぞ。
 金田はもちろん、ぐらりともしない。
「右足、もっと踏み込んで」
 ぽんぽん指摘されるうちに、守谷の姿勢がどんどん良くなっていく。
「そう。それで左手を一気に引く!」
 一本背負いがまさに決まりそうになった瞬間、身体を入れ替え、投げられたのは守谷のほうだった。
「あとは、重心移動かな」
 手をさしだして、金田はさわやかに笑った。
 周りの連中から、ため息がもれる。
 試験を受けないのも、あまり公の場には出られないというのが理由だそうだ。試合にももちろん出ない。
 だから金田はいわばこの柔道部の影の指導者のような存在だった。
 ひとに教えるのも勉強になりますから。
 さらりとそう云って皮肉にきこえないくらい、こいつは強い。
 だから不思議だった。
 かなりの達人の個人指導をずっと受けていて、その稽古日が水曜だから、週2日という制限はあるが、自分よりうまいやつのいない中坊の部活に真面目に出てくるメリットが、いったいどこにあるのだろうか。特例づくしの奴だ。必須の部活でも無理だと云えばぜったい通るだろうに。
「金田」
「はい」
 主将がばんばん投げられると立つ瀬がないとか、もうこのごろは考えなくなった。それより少しでも、こいつに追いつきたいと思う。
「つぎ、俺と組め」
 入部してくるときいて、はじめは面倒だと思った。
 経験者だが水曜は来ない。そもそも長期欠席もめずらしくないという。さぞ特別を鼻にかけた扱いづらいやつだろうと思ったさ。
 実際それは本人がどうこうできない周りの大人の都合だった。会ってみれば、やたら真面目な、拍子抜けするほど素直なやつだった。
 今日だって、先週からずっと海外で、しかも今朝もどったと噂にきいたが、こうして律儀に出てきてくれたのだ。少しは意味のある時間にしてやりたいじゃないか。
「お願いします」
 一礼して向きあうと、スッと隙のない構えになる。それでいて何処にも力が入っていない。ったく惚れ惚れするぜ。
 ゆっくり長く、息を吐く。
 集中。
 全力でいく!

 

     (おわり)

 


 ■あとがき■

 13歳(中2)初夏。律儀に学校へ通う正太郎くんシリーズその2でした(笑)。
 柔道初段の受験はふつう満14歳から。でもその前に級位の1級まで取得する必要があります。
 警察官になるなら段位が必要なのですが、そのへんは、まあいずれ何とかしてもらえるのでしょうか。

 当たり前の時間をとても大切にしている正太郎くんです。
 そして補修よりまず部活!(笑)
 勉強は、博士がフォローしてくれますもんね〜♪

      2017.12.7 WebUP / 2018.3.14 こばなし集へ移動

 

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