太陽の使者 鉄人28号 こばなし・その 23   〜 特別扱い 〜

 彼の座席は教室の一番うしろ。しかも窓際と、常に決まっていた。
 そこからだと校庭がよく見渡せる。
 授業中、彼がふいに立ちあがって教室を出ていっても、誰も気にしない。
 そういうとき窓の外を見れば、校門前にはパトカーが停まっているのだ。
 いちいち呼び出しをかけていては授業の妨げになるからと、たいがい学校側には連絡もなく、パトカーもサイレンは鳴らさない。
 無言でこちらに会釈だけして、静かに教室を出ていく後ろ姿を、幾度見送っただろう。
 先週は、ほぼ毎日のように早退した。
 昨夜遅くにやっと速報が流れ、今朝のニュースは事件の顛末でもちきりだった。その立役者はいたって普通に学校へやって来て、教室のすみに座っている。
 そんなわけで、窓の外をぼんやり眺めていた彼が、とうとう船をこぎだしても、注意する気にはなれなかった。
 開け放たれた窓から入ってくる風が、ときおり散り始めた桜の花びらを舞わせている。
 あたたかで、暑くもなく寒くもない。外の芝生で大の字になって昼寝でもしたいようないい陽気だ。
 今日の彼はたとえ本当にそうしたって、誰もしかりはしないだろう。
 疲れたときには休ませる。彼の保護者である敷島氏からの申し出は学校側も了承している。
 休めばいいのに。律儀に出てきて、それで居眠りをしているのだから真面目なんだかよくわからないが、彼にとっては普通の生活そのものが、たぶん貴重なのだと思う。
 学校での様子しか知らないから、金田が、あの金田正太郎だということさえ未だに不思議な気がするが、大人たちに囲まれて、たいへんなことをやってのけている時間をとりもどすかのように、ここでの彼は、いたって子どもらしい。
 いつものように、きらきらとした瞳で、こちらがうなるような質問を投げてくる元気が、はやく戻るといい。
 嗚呼。とうとう机のうえにつぶれて、眠ってしまった。
 隣の敷島牧子がクスクス笑いながら、しかしあたたかい視線を送っている。
 こののどかな時間は、彼が作ってくれた時間でもある。
 感謝と、そして尊敬を込めて、こんな日の居眠りに目をつぶっておくくらいは、彼を特別扱いしていることにはならないと思うのだ。

 

     (おわり)

 


 ■あとがき■

 11歳、小6になった春。
 担任の先生から見た、正太郎くんでした。

 こんな時間がたくさん続きますように(←いや勉強しないと!?/笑)。

 みんなに愛され、支えてもらっているから、正太郎くんは頑張れるんですね

      2017.04.28 WebUP    2017.12.07 こばなし集へ移動

 

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