がんばれ!キッカーズ 〜 ショートSS 〜

 ■ハテナ■   本郷真砂也


 どうしてサッカーボールは丸いんだろう。

 練習試合の帰り道。ぼくらは河原の土手をぞろぞろ歩いていた。
 ふと思いついた“ハテナ”が頭のなかをぐるぐるまわりだしてしまったぼくは、となりを歩いていた原兄弟に聞いてみることにした。
「ねぇたけしくん、きよしくん。どうしてサッカーボールは丸いんだと思う?」
『はあ?』
 ふたりは仲よく声をあわせて、ぼくを見た。
「いいじゃん、丸いんだから」
 と、たけしくん。
「いいじゃん、サッカーなんだから」
 と、きよしくん。
「でも、そういえば、なんで丸いのかなぁ」
 太一くんが、おかしを食べる手を止めて首をかしげた。
「だってボールは球体っていうルールがあるんだよ」
 デコくんが肩をすくめる。
「かけるぅ」
 とつぜん健太くんがぼくに乗しかかってきた。
「ばっか! んなの大昔から決まってんだよ」
「いや、そうとばかりは云えませんよ」
 学くんが眼鏡を指先で持ちあげる。
「サッカーの起源となったフットボールでは足を使わないというルールの場所もあったくらいですから、ボールが球体に限られていたかは疑問です。今もボールが手に入らない国では布のボールで遊んでますし、それは厳密に球体かと云うと……」
「サッカーボールが丸くなくてどうするんだよ」
 信介くんがあきれたように云う。
 頭の後ろになにかが当たって、ふりむくと、直人くんがドリブルしていたサッカーボールを、ぼくにぶつけたのだった。
 直人くんが、にやりと笑う。
「もしボールが立方体…、四角やったら、ヘディングは角が当たってかなわんなぁ」
 みんながドッと笑った。
「そうだよ、ヘタにトラップしたら刺さっちゃう!」
 哲也くんがボールをあげてきて、ぼくはあわててトラップで返す。
「ドリブルも、ぜんぜん転がらないだろうなぁ」
 と、おかしそうに守くん。
「そんなのサッカーじゃないんじゃない?」
「……そうだよね」
 なんだか、すこし話が違うような気もしたんだけど、頭をポリポリかいて、ぼくはもうハテナを忘れてしまうことにした。
 もしもサッカーボールが三角だったら、星形だったらと、まだ大騒ぎしているみんなのなかで、ふと、ひとりだけ黙っている姿に気づく。そのそばまで行って、もの思いに沈んでいるような顔をのぞきこんでみる。
「キャプテン、どうかしましたか?」
「……あ、いや」
 目が醒めたような顔で、キャプテンはぼくを見た。みんなの話がぜんぜん耳に入ってなかったらしい。
「翔」
「はい」
 キャプテンは、わきにかかえていたボールを、両手で目の前にかざした。
「ボールをこう、両手でキャッチしても、強い回転がかかっていれば、はじかれたり落としたりするだろ」
「はい……?」
「蹴り方ひとつで不思議なくらい曲げることもできる。サッカーボールは自在に回転するから、おもしろいんだ」
 ……あ。
「だから、サッカーボールは丸いんですね!」
 ハテナがはじけて消えた。
 嬉しかったのはそれだけじゃなくて、キャプテンがぼくの話を聞いていて、あきれたりせず考え込んでいたんだってこともそうだった。
 キャプテンがふわりと笑う。
「な」
 背中を押されて、ぼくは大きくうなずいた。
「おお。回転するために丸い……、そうかぁ!」
「へえ、だからサッカーって面白いんだなぁ」
「さすがキャプテン!」
 気がつけば、みんなキャプテンの言葉を聞いていたらしい。みんなが腑に落ちた様子で今度は口々に感心しているのにたぶん照れてしまったんだろう。キャプテンは黙って帽子を深くかぶりなおし、すたすた先頭を歩いていく。おもわずぼくは、くすくす笑ってしまった。
 きれいな夕焼けで、鉄橋に、大きな太陽がかかっている。
 今日の試合は負けてしまったけど、なんだか、たまらなくサッカーが大好きだ、って気持ちがあふれてきて、ひょっとしたら、みんなそうだったのかもしれない。ぼくらはもう黙って歩いた。

 大好きな、このキッカーズのみんなと一緒に、この次の試合こそ、ぜったいに勝ちたい。
 明日から、もっともっともっとがんばろう。
 そっと誓いをたてて。
 ボールを蹴る音だけが、だいだい色の空にいくつも響いていた。


 (おわり)   2004.10.16 UP






 ■あとがき■

考えてみたら、キッカーズでは小説書いたの、はじめてです。
本郷くんへの愛情を再認識して、楽しく書いたものの………。
山なし落ちなし、ほのぼの短編小説です。
まあ、笑って見逃してやってください(#^^#)



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