ちょっとネタバレの部分があるかも知れませんが、あしからず。
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恐竜レッドの生き方:ロバート・T・バッカー:新潮文庫 20030410
あらすじ 
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白亜紀、北米ユタ州。一頭の恐竜が悲しみに沈んでいた。彼女は狩りで、つがったばかりの夫を失ったのだ。高度の知能を持ち、体系だった社会生活を営むラプトルたちは、ひとりでは暮らせない。自己の遺伝子を残すために、より良い伴侶を捜さなければ……。恐竜は絶滅しなかった、鳥に姿を変えたのだと主張する著者が、最先端の学説と大胆な想像力で再現する、太古のラブストーリー。

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主人公はユタラプトルのレッド。首のところが赤い(それにしても、よく「赤い」と言うことが分かったものだ)種なので、レッドという名前だ。この、ユタラプトルという種族は、ヴェロキラプトルの仲間で、後ろ足の強大な鉤爪が特徴的。この鉤爪で獲物を切り裂き、捕食していたのではないかと推測されている。
映画「ジュラシック・パーク」にも出ていた(子供たちがレストランの厨房で襲われる、あの恐竜)し、最近はこの恐竜が主人公の小説(「さらば、愛しき鉤爪」)もあるので、ティラノ・サウルス(T・レックス)やイグアノドンといった有名な恐竜に混じって、結構馴染みのあるキャラクターかも知れない。
このヴェロキラプトル、恐竜の中では頭の良い部類に属していて、群れを作って狩りや生活をしていたようだ。また、かの暴君竜、T・レックスが登場する白亜紀後期までは、このラプトル種が捕食恐竜(肉食恐竜)の中では最強だったらしい。
恐竜の栄えた時代は、中生代の三畳紀、ジュラ紀、白亜紀で、その歴史は1億年とも言われている。そのうち、ラプトル種が繁栄していたのは100万年ほどで、全体に比べれば歴史のほんのひとひらでしかないのだが、頭の良いところといい、鉤爪という特徴的な形態といい、とても強烈なキャラクターだ。
今回、この「恐竜レッドの生き方」を読んで、ラプトル種の大ファンになってしまった(T・レックスも大好きだが、あいつらはただの暴れん坊)ことは言うまでもない。

物語は、メスのラプトル・レッドの生態を、一年を通して描いたもの。同時代に生きたであろうその他の恐竜との出会いや闘い、生活ぶりなどが、擬人化も交えて想像力豊かに描かれている。まるで、見てきたような、そんな自然な描写だ。
恐竜好きの人間の夢として、タイムマシンで過去に行き、恐竜の生態を覗いてみたい、というものがある(少なくとも自分はそうだ)が、その夢の一端を垣間見せてくれるようだ。想像力をかき立てて止まない。
ますます、その夢が膨らんでしまって困ったことになっているのだが。

ちなみに、脇役として、カミナリ竜のアストロドン、ラプトルに近い種族のアクロカント・サウルス(身体の大きさは手に入れたがおつむが弱い)、デイノニクスといった捕食恐竜、イグアノドンやガストニアといった草食恐竜などが登場するが、有名どころのT・レックスやステゴサウルス、トリケラトプス、ブロントサウルス(現在はアパトサウルスという名前が一般らしい)などは登場しない。生きた時代が違うのだ。

一つ疑問なのは、このラプトルもそうだが、これだけの長きに渡って繁栄していたのに、どうして人間のように進化しなかったのか、ということだ。哺乳類が繁栄して、類人猿→ホモ・サピエンスと進化した時代は、恐竜の栄えた時代に比べれば、それこそほんの一瞬でしかない。それよりもはるかに長く繁栄していた恐竜が、なぜ頭が良くなる方向に進化しなかったのか、素人の自分にはどうしても判らない。
特に、このラプトル・レッドを見ていると、ますますそう思うのだ。

しかし、もし恐竜の頭脳が発達し、文明を築き、絶滅することなく現代にまで生きていたら、人類は登場することも無く、こうやって悩むこと自体も存在しなくなってしまう。
宇宙的観測からすれば、そういう歴史もまた面白いのかも知れない。別の種族として、恐竜が文明社会で暮らす世界も見物だ。


 
探偵はバーにいる:東 直己:ハヤカワ文庫JA 20030330
あらすじ 
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札幌の歓楽街ススキノで便利屋をなりわいにする<俺>は、いつものようにバーの扉をあけたが……今夜待っていたのは大学の後輩。同棲している彼女が戻ってこないという。どうせ大したことあるまいと思いながら引き受けた相談事は、いつのまにか怪しげな殺人事件に発展して……ヤクザに脅されても見栄をはり、女に騙されても愛想は忘れない。真相を求め<俺>は街を走り回る。面白さがクセになる新感覚ハードボイルド登場!
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とにかくこの主人公、やたらと飲んでばかり。しかもウィスキーのロックやらストレートやら。朝昼晩関係なく、何かの折りに飲んでいる。実際こんなに飲んでばかりじゃ、動けないし、考えもまとまらないはず。何より、身体を壊す。いくらハードボイルドだからって、これじゃあ、飲み過ぎ。走り回ることなんかできやしない。人物造形はいかにもそれっぽいけど、現実感がなさずぎだな。
28で「オヤジ」というのも、何だか…。

でも、会話は面白い。ウィットに富んでいる。やせ我慢する主人公の言動も洒落ていると思う。


 
あたしにしかできない職業:ジャネット・イヴァノヴィッチ:扶桑社ミステリー 20030328
あらすじ 
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「あたし」ステファニー・プラムは、保釈中の逃亡者を捕まえて警察に引き渡す、逃亡者逮捕請負人、通称バウンティ・ハンターだ。今回もなかなか捕まらない逃亡者ケニー・マンキューソを追っていると、地元の葬儀屋スパイロから妙な依頼が。なんと、棺桶二十四個をさがしてほしいというのだが……。
天下無敵の二人組、ステファニーとメイザおばあちゃんが大活躍! CWA(英国推理作家協会)賞最優秀ユーモア賞に輝くスクリューボール・コメディ、<ステファニー・プラム・シリーズ>第二弾!
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相変わらず、プラム家は大にぎわい。この家族はこれが普通なのか? とにかく、とんでもなくカッとんでいる家族なんである。特に、母親の存在は大きい。何事にも動じない、という意味で。
ストーリーは、まあ、可もなく不可もなく、といった感じ。のめり込める事態もなく、イマイチかなあ? 次回作に期待しよう。


 
恐竜たちと遊ぶ1時間:佐貫 亦男:朝日文庫 20030316
あらすじ 
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地球誕生から46億年。動物が登場してから6億年。実に多様な「形」をもって地球上に発生し、厳しい環境変化の中で淘汰されていった動物たち。彼らのからだのしくみやデザインを痛快に批評しつつ、工学的な視点から、その興亡の必然性を説く異色の「進化論」!! 巧みな想像画96点を収録。
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動物が登場してからの6億年を1時間に見立て、それを地球劇場に登場した動物として紹介し、1時間経ったところ(現代)で終幕となっている。
改めて驚くのは、6億年を1時間とすると、恐竜たちが登場した中生代(三畳紀〜ジュラ紀〜白亜紀)になるには、それまでの古生代(クラゲ〜魚〜両生類〜爬虫類)が35分も続いたこと、また、中生代は16分続いたのに対し、その後の新生代(哺乳類が栄え始めた時代)は6分にしかすぎず、人類発生から現代に至っては、たったの24秒であることだ。
そういう風な時間のとらえ方からすると、6億年というのはとてつもない長さだし、恐竜が栄えた中生代だって、人類誕生から現代までの時間と比較すれば、こちらもとてつもない長さだ。そんな長きに渡って地球を支配していた恐竜たちには、やっぱりロマンを感じてしまう。

ただ、この本は恐竜が中心ではなく、それ以前やそれ以後も登場した動物を紹介しているので、恐竜は全体の半分弱である。また、雑誌に連載されたのは、1980年ということで、今から20年以上も前のことであり、多彩なイラストも少し現在と趣が異なる。
しかし、その反面、いろいろな動物を見ることができるし、また、その形態について、その必然性を説く辺りの話の展開は分かりやすく、面白かった。


 
ドリームキャッチャー(全四巻):スティーヴン・キング:新潮文庫 20030315
あらすじ 
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”クソは変わらず日付が変わる”をモットーに、メイン州の町デリーで育った、ジョーンジー、ヘンリー、ビーヴァー、ピートの4人組。成人した今、それぞれの人生に問題を抱えながらも、毎年晩秋になると山間での鹿撃ちを楽しんでいた。だが、奇妙な遭難者の出現をきっかけに、いやおうもなく人類生殺の鍵を握る羽目に――。モダンホラーの巨匠が全精力を注いだ畢生の大作、開幕!
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久々のキング、大作である。「IT」や「ザ・スタンド」と並ぶくらいの長編、文庫本で全四冊はさすがに長い。でも、やっぱり面白い。飽きることがない。
物語は、さしずめキング版SFホラーといったところか。といっても、あまりSF色は強くなく、どちらかといえば、キングらしいエンターテインメントが満載なモダンホラーといったところ。雰囲気的には、「IT」や「スタンド・バイ・ミー」に近い感じで、少年時代のことが生き生きと描かれている点は同じである。
今回は、上記のあらすじでは書いていないが、この四人以外にもう一人、重要な役割を担うダウン症の少年、ダディッツが抜群にいい。彼なくして、この物語はここまで感動的なものにはならなかっただろう。

怖くて、懐かしくて、優しい気持ちになれて、友情に涙する、そんな物語をかけるのは、やっぱりキングしかいない。


 
話を聞かない男、地図が読めない女:アラン&バーバラ・ピーズ:主婦の友社 20030222
あらすじ 
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「男と女の謎」を解き明かし、日本で200万部、全世界で600万部、42カ国でNo.1となった超ベストセラー待望の文庫化!
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単行本発売当時、話題になり、自分も読んでみたくなったんだけど、どうせ一過性のものだし、わざわざ買ってまで読むこともないか、と買うのを控えていたら、そのうち忘れてしまっていた。今回、文庫化され、さらに古本屋で100円で売っているのを見つけたので、思わず買ってしまった。

それはともかく、意外と言っては何だが、とても面白かった。男と女の違いや、それぞれの特徴を、日常的な行動で分かりやすく説明してあるからだ。
中には首を傾げるようなこともあるが、大抵は思い当たることばかり。「なるほどねえ」とか「そうか、そういうことだったのか」とか、感心することしきり。
特に可笑しかったのは、タイトルにも関係あることだが、男は一度に一つのことしかできない、女は空間能力が劣っている、という点。何度も繰り返し出てきて断言する。その度に納得してしまうのだ。

男の自分から見て、とてもユーモラスで楽しい本だったが、女の人から見てどうなのだろうか? また、女の人もこの本に書かれている内容を納得できるのだろうか?

とにかく、意外に面白いので、買わなくてもいいから、図書館なりで借りて読んでみることを勧める。


 
溺れる魚:戸梶 圭太:新潮文庫 20030215
あらすじ 
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謹慎中の二人の不良刑事が、罪のもみ消しと引き換えに、監察から公安刑事の内偵を命じられた。その刑事は、ある企業から脅迫事件の犯人割り出しを依頼されていたのだ。脅迫は、幹部社員に珍奇な格好で繁華街を歩かせろという、前代未聞の内容だった。いったい犯人の真意とは? 意表を衝く人物設定とスピード感あふれるストーリー展開が評価された快作。宍戸錠氏の特別エッセイを収録。
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初戸梶作品。読む前から、何となく初期の筒井康隆みたいな感じの作風なのかと思っていたんだけど、その辺は違った。もっとまともだった。ちょっと残念。
この作品は映画にもなったようで、文庫本の表紙は映画用の写真が使われている。まあ、確かに映画向きの、テンポの良い内容だ。

確かに登場人物が際だっていて、どの人物も個性的なのだけど、結局最後まで誰が主人公なのか分からないまま終わってしまった、というのが正直なところ。どの人物の行動とか考えに同調したらよいか分からない、というか、感情移入できる人物がいなかった、といったところ。平均的にみんなが主人公みたいだった。
この作品はそういうものだ、ということなのかも知れない。


 
さらば、愛しき鉤爪:エリック・ガルシア:ヴィレッジブックス 20030129
あらすじ 
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おれの名前はヴィンセント・ルビオ。ロサンジェルスが根城のケチな私立探偵だ。つまらない仕事のかたわら、謎の死を遂げた相棒アーニーの死因を探っている。そんなおれを<評議会>がけむたがっているのは承知の上だ。
ところでおれは、人間じゃない。人間の皮をかぶり、人間にまぎれて暮らしているヴェロキラプトルーー恐竜だ。
ああ、それにしても昔はよかった……。
世界中で熱狂の渦を巻き起こした恐竜ハードボイルド、ついに登場!
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途中で気づいた。これは、人間の皮をかぶった恐竜が主人公のハードボイルドとして読むとちょっと期待はずれになってしまう、これは、人間の皮をかぶった恐竜の、人間社会での生活ぶりを現した物語である、たまたま主人公が探偵だったというだけのことだ、と。
実際、そう割り切って読むとやたら面白い。恐竜には恐竜なりの苦労が多くて、人間社会でばれないように暮らしていくのも大変なのだ。そもそも、なんで恐竜なの? とか、どうやって人間の振りをするの? とか、いや、そもそも、なんで恐竜として繁栄しなかったの? とか、いろいろ突っ込みどころはあるんだけど、それを言っちゃあヤボってもの。恐竜も大変なんだなあ、という感覚で読むのが一番良いかも知れない。

いろいろな恐竜が人間社会で生きていくための知恵を披露してくれている。それを読むだけでも、思わずニヤッとしてしまうのだ。


 
ラッキーマン:マイケル・J・フォックス:ソフトバンク パブリッシング 20030119
あらすじ 
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この病気にならなければ、ぼくはこれほど深くて豊かな気持ちになれなかったはずだ。だから、ぼくは自分をラッキーマンだと思うのだ。

30歳、マイケル・J・フォックスは人生の頂点にあった。若手トップスターとして絶大な人気を誇り、最愛の妻トレーシーとのあいだに産まれた長男も健やかに育っていた。
そんな彼の人生は、ある病気によって一変する。パーキンソン病に侵され、俳優生命も残り10年足らずと宣告されたのだ。
マイケル・J・フォックスが、自らの人生、家族、仕事、そしてパーキンソン病との闘いを、みずみずしい文章で綴った感動の記録。
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「本当に大切なものをぼくは病気のおかげで手に入れた」
と帯にもある。不治の病に冒され、絶望からはい上がって、その病気を受け入れ、共に生きていくことを決めないとこんなふうな達観した気持ちにはなれないはずだ。

マイケル・J・フォックスは、アメリカで「ファミリー・タイズ」というテレビドラマに出演していて、当時から人気俳優だった。そんな彼が世界的に有名になったのが、ご存じ映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』。
ライト・コメディ路線をこのまま続けるか、俳優として前進するために、新しい路線に方向転換するか、そんなふうに悩み始めていた頃の発病。結局彼は前者を選択した。それは出演していた映画でも垣間見える。『カジュアリティーズ』などのシリアスな映画にも出演していたが、結局『摩天楼(ニューヨーク)はバラ色に』『ドク・ハリウッド』『バラ色の選択』などのコメディに落ち着いていったことでも分かる。
しかし、考えてみても欲しい。俳優としての生命が残り10年しかないと宣告されたら。新しい路線に変更して成功しても、10年後は俳優としてはやっていけないのだ。だとしたら、現在の路線を踏襲するしかなかったのだ。ここにも、彼の苦渋の選択が見える。そんなこととはつゆ知らず、「マイケル・J・フォックスは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の呪縛から逃れられなかったな」などとシニカルに考えていた自分がいた。
その誤解が解けた、という意味においても、この本を読んだことは自分にとってとても良いことだった。何と言っても、自分は彼の大ファンなのだから。

文章は、これが初めて本を書いたとは思えないほどのみずみずしさで、とても読みやすい。時にユーモアを交え、彼の映画での役柄を彷彿とさせる部分もある。湿っぽい部分がほとんどないので、読んでいるこちらも殊更落ち込むこともない。
特に際だつのが、妻であり、女優でもあるトレーシーに寄せる愛情と信頼。また彼女の、マイケルに対する愛情もしかりだ。家族って素晴らしい。

パーキンソン病も、十分な研究資金さえあれば、その治癒方法がここ10年以内に確立されるという。マイケル・J・フォックスを含めた罹患者が、この病気から開放されることを願ってやまない。


 
イリーガル・エイリアン:ロバート・J・ソウヤー:ハヤカワ文庫SF 20030111
あらすじ 
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人類は初めてエイリアンと遭遇した。四光年あまり彼方のアルファケンタウリに住むトソク族が地球に飛来したのである。ファーストコンタクトは順調に進むが、思いもよらぬ事件が起きた。トソク族の滞在する施設で、地球人の惨殺死体が発見されたのだ。片脚を切断し、胴体を切り裂き、死体の一部を持ち去るという残虐な手口だった。しかも、逮捕された容疑者はエイリアン……世界が注目するなか、前代未聞の裁判が始まる!
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噂に違わぬ面白さ。もう最高!
エイリアンが登場する法廷ミステリ、とでも呼べばよいのか、とにかくその発想が奇抜なんだけど、展開は実にスムーズ。裁判が進むにつれ、次第に明らかになるエイリアンの正体というか、生態も気になるところ。果たして真相はどこにあるのか? 最後までドキドキしながら読めること請け合い。

SF作品の醍醐味として、その発想の大胆さと、それを物語にどう取り込んでいって、うまく展開するか、という楽しみがあるが、ソウヤーに関しては、難しいことを考えることもなくその醍醐味を満喫できる。

ソウヤーの作品はまだ二作目だが、文句なしに面白いということでまったく一致している。SFがこんなに面白いものだと改めて認識させてくれる作家に出会えて良かった。邦訳されている本を全て読みたくなる作家の登場だ。


 
北朝鮮の暮らし:宮塚 利雄:小学館文庫 20030105
あらすじ 
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配給の途絶えた食糧を求めて、買い出しに行く人々の物乞い袋、粗悪なトウモロコシ、ボロボロになった布靴、ゴムの入っていないパンツ、洗っては何度も使うコンドーム……北朝鮮の人々は、電気の来ない暗い家で暮らしている。闇市場には浮浪児が集まり、一粒の米を求めて彷徨う。
一方に釜山のアジア大会に登場した美女軍団がいる。立派なスーツを着た外交官や高級幹部がいる。彼らは援助物資などを横流しして豊かな生活を満喫している。
そんな不思議な国「北朝鮮」の庶民の苦しみを、ここに掲載した生活物資80点の写真が如実に物語っている。
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副題(浮浪児と美女軍団)にもあるように、貧困にあえぐ下層の人たちの生活ぶりを示す、生活必需品の質の悪さを浮き彫りにしつつ、他方で特権階級の人たちの豪華な暮らしぶりを垣間見せる豪華で無駄とも言える装飾品の数々。
対外的には北朝鮮の良いところばかりが目に付き、決して表に出ることのない悲惨な貧困階級。噂には聞いていたが、それを如実に表してくれるこれらの写真は、かなり貴重なものだと思われる。また、その写真に対する豊かな知識に基づくコメントも参考になる。
北朝鮮のことをますます知りたくなった。


 
緋色の記憶:トマス・H・クック:文春文庫 20021231
あらすじ 
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ある夏、コッド岬の小さな村のバス停に、緋色のブラウスを着たひとりの女性が降り立った――そこから悲劇は始まった。美しい新任教師が同僚を愛してしまったことからやがて起こる"チャタム校事件"。老弁護士が幼き日々への懐旧をこめて回想する恐ろしい冬の真相とは? 精緻な美しさで語られる1997年度MWA最優秀長編賞受賞作。
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最後の最後に明かされる事実。読者は薄々感づいているのだが、それでも読まずにはいられない。そして、その事実を知ってもやはり「なぜ?」という思いは残ってしまうのだ。

とにかく、静かに押さえられた文体で物語は淡々と進んでいく。その進み方がまた巧い。ジワジワと盛り上げていって、その盛り上がった状態がダレることなく、最後まで続くのだ。

回想、という手段をとる限り、結果は最初からある程度予想できるものになってしまう。それでも、この作品は、最後まで作品の質を落とすことなく読ませてくれた作品だった。

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以下、少しネタばれ。

読んでいる途中から、松本清張の『天城越え』のストーリーを思い出してしまった。結末も、動機も、事実も異なるのだが、少年の激情を生み出したのは、同じような感情だったのではないだろうか?


 
斜陽:太宰 治:新潮文庫 20021225
最後の貴婦人である母、破滅への衝動を持ちながらも”恋と革命のため”生きようとするかず子、麻薬中毒で破滅してゆく直治、戦後に生きる己れ自身を戯画化した流行作家上原。
没落貴族の家庭を舞台に、真の革命のためにはもっと美しい滅亡が必要なのだという悲壮な心情を、四人四様の滅びの姿のうちに描く。昭和22年に発表され、”斜陽族”という言葉を生んだ太宰文学の代表作。

 
標的走路:大沢 在昌:文春ネスコ 20021223
大沢在昌の佐久間公シリーズというのをご存じだろうか? 私立探偵、佐久間公を主人公とした物語は、『感傷の街角』『漂泊の街角』『追跡者の血統』『雪蛍』『心では重すぎる』とあるんだけど、何を隠そう、この『標的走路』はその前に発表されていた幻の佐久間公デビュー作なんである。
元々は、双葉社から出ていた本らしいのだが、そこからは既に絶版が言い渡され、幻の本となってしまった、『標的走路』。そんな絶版本に救いの手を差し伸べてくれるサイトもあるのだ。そこが「復刊ドットコム」というサイト。そこでこの『標的走路』の復刊を求め、それが交渉権を獲得する100件以上の署名を得て、交渉していただいた結果、今回の復刊となったのだった。もちろん、大沢在昌というネームバリューが効いたことは否めない。それにしても、とにかく、復刊は嬉しい限り。ファンの力とサイトの力で絶版本の復刊が叶うとしたら、それはインターネットを利用した素晴らしい運動じゃないかと思う。

ああ、前置き長すぎ。

で、実際の物語なんだけど。
佐久間公は、20代の若者だ。まだかけだしの探偵。「探偵」という言葉自体も恥ずかしくなるような、そんなどこにでもいそうな若者。彼がなぜ早川探偵事務所に雇われることになったのか、結局その辺の経緯はやっぱり曖昧なままだった。
公には悠紀という恋人がいる。この後の展開が分かっているだけに哀しい。
公には、沢辺という悪友がいる。彼との掛け合いがまた楽しい。沢辺の存在はこの物語の中でも特筆すべきキャラクター。それが活きていたのが嬉しかった。

結局は、佐久間公の過去を懐かしむだけの物語になってしまったのか、ちょっと考えさせられた物語だった。もちろん、物語自体は楽しめたんだけど、全ては「今現在の」佐久間公を基準に考えて作られた物語のような気がする。ノスタルジックな作品、だっだと言える。


 
 
クリスマスに少女は還る:キャロル・オコンネル:創元推理文庫 20021220
あらすじ 
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クリスマスを控えた町から、二人の少女が姿を消した。誘拐か? 刑事ルージュの悪夢が蘇る。十五年前に双子の妹が殺されたときと同じだ。そんなとき、顔に傷痕のある女が彼の前に現れた――「わたしはあなたの過去を知っている」。一方、監禁された少女たちは力を合わせ脱出のチャンスをうかがっていた……。巧緻を極めたプロット。衝撃と感動の結末。新鋭が放つ超絶の問題作!
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そうか、そういうことだったのか、とラスト近くなってやっと納得。訳者後書きを読んでさらに納得。それまでは、結構淡々と進んでいるなあ、といった程度の感想だった。
ラストの持って行き方は、オースン・スコット・カードの『消えた少年たち』を思い出させる展開だ。あちらも一気に来たが、こっちも一気に来た。そういえば、あちらもクリスマスの頃の話だったな。

サディーとアリ。間違いなくこの二人が主人公なのだった。…が。

その他に、ルージュとかグウェンなどはしっかりキャラクターが立っているんだけど、それ以外の人は没個性というか、しっかりしたキャラクターが立っていなくて、その他大勢、という括りでしか読めなかった。なので、実は犯人が明らかになっても何の感慨もなく、その人ってどんな役割の人だったっけ? とまで感じた始末。
途中の話を斜め読みしていたのかもしれないんだけど、それって途中がつまらなかったってことにもなるんじゃないかな?
「衝撃と感動の結末」。確かに驚いた、ちょっと感動した。でも、展開の仕方が急すぎ。ついていけなかった(乗り遅れた)のも事実。


 
クリスマスのフロスト:R・D・ウィングフィールド:創元推理文庫 20021208
あらすじ 
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ロンドンから70マイル、ここ田舎町デントンでは、もうクリスマスだというのに大小様々な難問が持ちあがる。日曜学校からの帰途、突然姿を消した八歳の少女、銀行の玄関を深夜金梃でこじ開けようとする謎の人物……。続発する難事件を前に、不屈の仕事中毒(ワーカホリック)にして下品きわまる名物警部のフロストが繰り広げる一大奮闘。抜群の構成力と不適な笑いのセンスが冴える、注目の第一弾!
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いや、もう、素晴らしいキャラクターだ、フロストって。これだけ下品でがさつで人間くさくて無骨で遠慮会釈のない人間も、ここまで徹底していると愛着さえ抱いてしまう。読む前は、ちょっと「刑事コロンボ」みたいなキャラクターをイメージしていたんだけど、とんでもない、コロンボなんて可愛いと感じてしまうほどだ。こんな人間が近くにいたら鬱陶しくてしょうがないだろうけど、妙に親近感を感じてしまった。

ストーリーは、いくつもの事件が次々に起きて、それに振り回されるフロストと助手のクライヴの奮闘ぶりが描かれているのだが、それらの事件が次第に収束されていくさまは、フロストのキャラクターに圧倒されつつも見事だ。いや、見事なのか? 大したことはないのか? とにかく、物語としても、きちんと構成されている点は素晴らしい。

クライヴも、心で悪態を付きながらもちゃんとフロストの命令を守り、りっぱに職務を遂行する点は可笑しくも好感が持てるのだが、他にも出世のことしか頭にない署長のマレットや、気のいい部長刑事やうだつの上がらない万年巡査部長など、個性的なキャラクターがたくさん登場していて楽しい。続編も楽しみなシリーズだ。


 
エンダーのゲーム:オースン・スコット・カード:ハヤカワ文庫SF 20021202
あらすじ 
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地球は恐るべきバガーの二度にわたる侵攻をかろうじて撃退した。捕らえた人間を容赦なく殺戮し、地球人の呼びかけにまるで答えようとしない昆虫型異星人バガー。その第三次攻撃にそなえ、優秀な司令官を育成すべくバトル・スクールは設立された。そこで、コンピュータ・ゲームから無重力戦闘室での模擬戦闘まで、あらゆる訓練で最優秀の成績をおさめた天才少年エンダーの成長を描く、ヒューゴー、ネビュラ両賞受賞の傑作。
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うーん…。面白くない。自分にはこの手の話は合わないみたいだ。昔読んだハインラインの『宇宙の戦士』を彷彿とさせるような内容。あれも面白くなかったが、イヤな予感は当たってしまった。

ストーリーは、昆虫型異星人バガーの3度目の襲撃に備えて、戦士としての資質のある子供を幼少のときから戦闘シミュレーションで鍛え、その戦役で第一線として戦ってもらおうと訓練する話。その資質がもっとも顕著に見られたのが主人公エンダー。
エンダーが6歳(!)の時にバトル・スクールに入り、そこで実戦形式の白兵戦を何度も行ない、やがてその戦闘能力、指導力などで他の生徒を遥かに凌駕していることを認められて、エンダーはエリートの道をひた走る。その成長物語。
といったような内容。

まだホンの子供であるエンダーの悩みなども描かれてはいるのだが、物語のほとんどは戦闘訓練の話ばかり。幼いエンダーがヤケに大人ぶった考えを持っている、なんてとこは不自然と言えば不自然だけど、それよりもやっぱり明けても暮れても戦闘訓練の話ばかりじゃ飽きるって。

ということで、まったく楽しめなかった作品。


 
スコッチに涙を託して:デニス・レヘイン:角川文庫 20021123
あらすじ 
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古都ボストンに探偵事務所を構えるパトリックとアンジー。彼らのもとに二人の上院議員から依頼が舞い込んだ。「重要書類を盗んで失踪した掃除婦ジェンナを探してほしい」たやすい依頼に法外な報酬。悪い予感は的中した。辿り着いた彼女の家はもぬけの殻、そして何者かに荒らされた形跡。書類を探しているのは議員たちだけではなかった。街に銃声が鳴り響き、屍が積み重なる。戦場と化したボストンのストリートを疾走する二人の前に姿を現した澱んだ真実とは――。
「刑事パトリック&アンジー」シリーズ、待望の日本上陸第一弾。
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やはり面白かった。やはり、というのは、この小説が結構評判がよいのをあちこちで見ていたからだが、噂に違わず面白い。ハードボイルドの新しいヒーロー、パトリックの誕生だ。
パトリックの相棒、アンジーの魅力もさることながら、パトリックの一人称で語られる文体が格好いい。クールでシニカル、ときに熱いものを内に秘めて静かに燃える。

物語自体はそれほどスケールの大きいものではなく、むしろ狭い範囲での話で終始する。だけど、パトリックの言動が魅力的で、ぐいぐいと読ませてくれる。アンジーも魅力的なんだけど、ちょっとパトリックとの違いがあんまり出ていなくて、似たようなキャラクターだな、というのが少し残念。二人のやりとりにメリハリがない、という感じ。

このシリーズは現在5作まで書かれているそうだが、パトリックとアンジーのこれからも楽しみだけど、どんな事件が起きて、それを二人がどのように感じながら展開していくのか、というのを感じながら読むのも楽しみだ。

グール(上・下):マイケル・スレイド:創元ノヴェルズ 20021117

あらすじ 
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<下水道殺人鬼><吸血殺人鬼>そして<爆殺魔ジャック>。ロンドンはいま、跋扈する複数の殺人鬼に震撼していた。ニュー・スコットランド・ヤードには特捜部が設置され、女性警視正ヒラリーは大規模な操作の陣頭指揮に立った。しかし彼女はまだ知らない。殺人鬼たちの背後に蠢く究極の殺人鬼<グール>の存在を。しかも事件の連鎖は、海を越えてカナダ、さらにはアメリカにまで延びていたのだった! ヒラリーに勝機はあるのか?
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なんともはや、すごい作品だ。面白いかとか言う前に、とにかく凄い、としか言いようがない。

ジャンル的にはサイコ・ホラー、ということになるんだろうか。結構スプラッタ的な部分もあるし、あんまり読んでいて気分のいい物ではない。こういった本は、畳みかける展開が面白かったりするんだけど、それもそんなには感じない。

ラストの種明かしで「ふーん、そうなんだあ」と思った程度。ちょっと懲りすぎじゃない?


 
あやしい探検隊 アフリカ乱入:椎名 誠:角川文庫 20021107
あらすじ 
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マサイ族の正しい雄姿をこの目で見たい! と、過激に果敢にアフリカ入りした、椎名隊長率いるあやしい探検隊の五人の面々。万事、出たとこ勝負、気分はポレポレ。サファリを歩き、野獣と遊び、マサイと話し、キリマンジャロの頂に雪を見るというような至福の日々に、思いもかけない"災い"も待っていたーー。大胆不敵でありながら、哀愁にみちた「あやしい探検隊記」の第五弾、ますます楽しい熱風草原の巻。
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「あやしい探検隊」シリーズもこれで五作目。さすがに昔のようなパワーが感じられなくなってきた。活動のスケールは段々大きくなってきているんだけど、豪放磊落さが影を潜め、こぢんまりしてしまったかな、という感じがする。

今回はアフリカ乱入、ということで、広大なサバンナにキャンプを張って野生動物を観察したり、無謀にもマサイ族と友達となろうとして危険な目にあったり、キリマンジャロに登ったり、モンバサという海岸でインド洋の海で海水浴したり……、とあちこちお騒がせしまくっている。その行状は、椎名誠の文体と相まって、面白いんだけど何か遠慮がちなところが見え隠れする。
やっぱり、「東ケト会」のような、後先を考えていないような無茶苦茶な行動が面白いんだけどなあ。

今の時代、そんなことしていたら警察が吹っ飛んでくるのかも知れない。いろいろな意味で、人間は素朴ではなくなったのデス。


 
ハリー・ポッターと炎のゴブレット(上・下):J・K・ローリング:静山社 20021106

あらすじ 
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魔法界のサッカー、クィディッチのワールドカップが行われる。ハリーたちを夢中にさせたブルガリア対アイルランドの決勝戦のあと、恐ろしい事件が起きる。そして、百年ぶりに開かれる三大魔法学校対抗試合に、ヴォルデモートが仕掛けた罠は、ハリーを絶体絶命の危機に陥れる。しかも、味方になってくれるはずのロンに、思いもかけない異変が……。
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最初に断っておく。ネタばれも含まれている。

「ハリー・ポッター」シリーズ第四巻。今までで一番長い。上・下巻で1,100ページ以上。読み応え十分。
但し、余計な膨らみを持たせすぎたかな、という感じはする。例えば、クィディッチワールドカップ。それから、三大魔法学校対抗試合。どちらもゲーム(ロールプレイイング?)みたいな感覚で、面白いイベントではあるし、特に後者はこの物語の要となっているので外すわけには行かないんだけど、ちょっとその二つにページを割きすぎたような気がする。
それにしても、相変わらずビックリ箱状態は今回も健在。次々と新しいキャラクターや動物、呪文、魔法界の本などが登場し、ホグワーツ・ワールドがさらに広がった感がある。さながら、「スター・ウォーズ」の世界が段々スケールアップしたのに似ている。物語は生きている、ということなのだろう。
このシリーズのきも、ハリー、ロン、ハーマイオニーの活躍と友情がどのように展開するか、というのも一つの大きな見所だ。個人的には、14歳という歳にしては、みんなあんまり成長してないんじゃないか? と感じた。でも、それは後で気づいたんだけど、映画(賢者の石)のキャラクターの造形が心に残っていて、あの映画の時のキャラクターの年格好がインプットされたまま成長していない、というのもあるようだ。
それと、ハーマイオニーはハリーのガールフレンドじゃないことが判明してちょっとガッカリ。おかしいなあ。この後どうなるんだろう? ロンは相変わらず子供っぽいし。
ハリーとロンが喧嘩して、仲直りする場面。ハーマイオニーが安堵して大泣きするシーンや、三人それぞれが別のパートナーとダンスするシーン、最後にハーマイオニーが見せた仕草など、この三人の今後はやっぱりこのシリーズを見る上で一番気になるところだ。

いや、ヴォルデモートの復活や巨人の話も絡んできて、物語がますます面白くなっていきそうな次号以降も十分楽しみ。

最後に。
クライマックス、ハリーがヴォルデモートと対決するシーン。苦悩や葛藤、いろいろな思いで苦しみ、最後に道を切り開いていったハリーは、ちょっと格好良かったゾ。


 
ロシアにおけるニタリノフの便座について:椎名 誠:新潮文庫 20021022
あらすじ 
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真夏の珊瑚礁から一転して、極寒のシベリアに飛んだ椎名誠。彼を待ち受けていたのは、なんと便座の全くない便器だった! ソ連邦トイレ事情にはじまり、地球上の食物連鎖にまで話がおよぶ表題作のほか、少年期を過ごした幕張の川でのカヌー体験「はじめての川下り」。免許取得までの汗と涙と憤怒の記録「自動車たいへん記」など、全7編を収録。素朴な疑問と正しい怒りの過激実感文集。
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椎名誠の本は相変わらず面白い。どうも、彼のエッセイを読むと文体までが彼の作品の中のものに似てしまうと言うのがあるんだけど、そこは意識して合わせないようにしてみようかな?

この雑文集に収められているのは、下記の7編。彼のエッセイ集には良くある話だが、それぞれの話は何の脈絡もない。どれから読んでも良いし、ある作品を読まなくても一向に構わない。一応、簡単に感想などを。

「ロシアにおけるニタリノフの便座について」
ロシアに行く、というので、その同行者にロシア風の名前を付けてしまう、というのが可笑しい。その中で、やっぱり「ニタリノフ」は最高の命名だろう。便座がなくてどうやって致すのか、謎だ。ロシアのトイレはめちゃくちゃ汚いそうなので、できれば遭遇したくない。

「万年筆いのち」
物書きとしては、やっぱり万年筆にはこだわりたいものらしい。万年筆と言えばパイロットくらいしか使ったことのない自分としては、モンブランなんてもったいなくって使えない。惚れていた女性からもらった万年筆を語る辺りは、椎名誠の照れくささも感じてなかなかよろしい。

「はじめての川下り」
今でこそ椎名誠も野田知佑と一緒に川下りしている写真とか紀行文を読むこともあるけど、最初ってやっぱり緊張するモンだなあ、と感じた次第。野田知佑の人柄もキチンと書かれていて、カヌーデビューの話としてはなかなか興味深い。

「自動車たいへん記」
笑った。椎名誠って免許持ってなかったんだ。40過ぎてからの教習所通い。そりゃあ、教官には腹も立つというもの。わかるよ、わかる。

「ストロングな波」
八丈島の大波の話。ドドーンと波止場にうち寄せる波を見るのが好きな椎名誠氏。もちろん、自分も好きだ。ただそれだけの話。

「梅雨のかたまりをとびこえる話」
梅雨が来ている時期に、その真っ最中の場所から一気に梅雨明けした沖縄へ行った、という、これもただそれだけの話。

「まつりはいいなあ」
比較的長めの作品。日本全国の祭りを探し歩いて、その時期にやっている祭りを見に行こうというもの。合計7つの祭りが紹介されている。一番読み応えがあって楽しい作品。つまらなさそうな祭りも、椎名誠が書くとなんか楽しそうに感じてしまうのは、やっぱり彼の文体に寄るところが大きい。どれも楽しそうに見えてしまう。祭りはいいなあ。

どれも他愛のない話だ。だけど、椎名誠が書くと、面白いのだ。笑っちゃうのだ。やっぱり椎名誠は文句なしに面白いのだ! ハッ、いかん、いかん。似非椎名誠文体だ。


 
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