あらすじ
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二十世紀最後の怪奇小説作家H・P・ラヴクラフト。その全貌を明らかにする待望の全集――本巻には、不気味な魚影がうごめく禁忌の町を舞台に<ダゴン秘密教団>にまつわる怪異を描く『インスマウスの影』をはじめ、デラポーア家に伝わるおぞましい血の秘密が戦慄を呼ぶ『壁のなかの鼠』やブラック・ユーモア風の『死体安置所にて』など全四編を収録。
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『インスマウスの影』
ラヴクラフト全集の最初を飾るにふさわしい作品。
「インスマウス」という町に踏み込んだ1人の男。なぜかこの町は地域住民から忌み嫌われていた。その理由とは…。
その町に住む老人から聞き出した話は何ともおぞましいもので、やがてその男も異形なものに追いかけられ、命を狙われる。命からがらこの町から抜け出した男だったが、皮肉な運命が待っていた。
どうも、「インスマウス」というと、栗本薫の『魔界水滸伝』に出てきたインスマウスを思い出してしまう。似て非なるものなんだけど、個人的には『魔界〜』のインスマウスの方が、救いのないものと感じて怖かった。なにしろ、あっちは餌だからなあ。
『壁のなかの鼠』
自分の祖先が呪われた人物だったと聞かされた「わたし」は、その汚名を晴らすため、かつてその祖先が住んでいた邸を購入し、そこに住むことにした。やがて、壁の向こうから聞こえる音に悩まされ始め、その音の正体を突き止めようとする。
段々狂気の世界に踏み込んで行く「わたし」の行状が、何とも不気味。ラストもむべなるかな、という感じ。
『死体安置所にて』
葬儀屋の男がある二人の死体を似たような棺に入れたのだが、その棺は最高級のものと最低なものだった。
理解不能。意味不明。
『闇に囁くもの』
怪異なものを研究している「わたし」の元へ、ある老人から手紙が届いた。その老人は日々闇の中で聞こえる囁き声に悩まされていた。一見、狂っていると思われるこの老人の元へ、「わたし」は出かけることにした。
ちょっとSFっぽい内容の作品。宇宙人がこの老人の元に現れたという設定。どことなく滑稽な話なんだけど、妙に不安にさせる文体だ。
ラヴクラフトの作品を読んだのはこれが初めてなんだけど、淡々としていて、それでいて訥々と語るその独特の文体は、読んでいる方の気持ちを落ち着かなくさせるものがある。多分、それがラヴクラフトの魅力なんだろう。 |