あらすじ
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1919年、ワールド・シリーズ八百長事件に巻き込まれて永久追放の憂き目にあった悲運の外野手、そのシューレス・ジョーが、いまアイオワのトウモロコシ畑のなかの野球場に現れる――夢見ることの力、人生における"野球"という言葉の魔力を、詩的に、ファンタスティックに描いた傑作青春小説。
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映画「フィールド・オブ・ドリームス」の原作である。昨日この本を読み終わり、無性に映画が観たくなり、今日ビデオで観た。登場人物に若干変更があったり、ストーリーの前後が違っていたりしたが、再度観た映画も感動的だった。
アメリカ人にとってシューレス・ジョーという存在は、日本人に例えるならば、若くして戦火に散った沢村栄治のようなものであるらしい。1919年のワールド・シリーズで八百長をしたとして永久追放されたシカゴ・ホワイトソックスの選手8人の中でも、特にこのシューレス・ジョーがいつまでも記憶に残っているのは、ある少年ファンが彼に向かって言った言葉(「嘘だと言ってよ、ジョー」)があるからだ。この祈りにも似た悲痛な叫びは、そのまま大半のアメリカ人の思いだったのではないだろうか。
なお、この八百長事件を扱ったものとして、映画の「ナチュラル」(ロバート・レッドフォード主演)や、「エイトメン・アウト」(小説や映画もある)といったものがある。
物語の主人公、レイ・キンセラは、「それを作れば彼はやってくる」という声に従い、トウモロコシ畑を切り拓き、野球場を作る。やがてシューレス・ジョーが現れ、その他の7人も現れる。しかし、この8人は見えない人には見えない(何しろ幽霊みたいなものだから)。レイは、さらに声の示唆する通り、J・D・サリンジャー(「ライ麦畑でつかまえて」の作者)や、一度だけ守備要員として大リーグの試合に出たことのあるムーンライト・グラハム、そして、かつてシカゴ・カブスに在籍していたという嘘がいつのまにか頭の中で現実となってしまったエディ・シズンズ老人を連れてくる。8人の選手が見えない人にとっては、狂気の沙汰以外の何物でもない。
やがて本当の「彼」が現れるが、レイに呼びかけていた声は、実はレイ自身の願望から出たものではないだろうか?
ムーンライト・グラハムが去り、エディ・シズンズも去り、やがてサリンジャーも去ってゆく。サリンジャーが去ってゆくラストは、この物語を象徴していて感動的だ。叶えられなかった夢が叶ったら、というそれぞれの想いを叙情的に描いた、そんな小説だ。
この小説を読んだ後に、「フィールド・オブ・ドリームス」を観ることを勧める。映画の中でシューレス・ジョーが登場するシーンに、思わず胸が熱くなるはずだ。映画のラスト、レイが「彼」とキャッチボールするシーンも必見。
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